魔法と思春期 skab (ページ29)

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生まれて初めて、人を殺したいと思った。

「誰か！」

佐久間を睨みつけたまま、静かに腰元に手を伸ばした俺を見たふっかが、ギョッとした顔をして叫ぶ。
誰かが駆けつけてくれれば、この場は収まるだろう。
そう考えてくれたようだが、返答はおろか、図書館は異様に静まりかえったまま、人が来る気配はない。
ふっかの焦る顔を見た佐久間が、おかしそうに顔を歪めて笑う。

「俺たちしかいないから無駄」

おそらく最初から、この場所で俺たちを嵌めるつもりだったのだ。
だから定期的な見回りも来なかった。
ああ、くそ。
ふっかと一緒にいる時は狙われない、勝手にそう思いこんでいた。
これは完全な俺の落ち度である。

「勘違いしないでもらいたいんですけど、俺たちはマグルじゃなく、正確には半純血です」

まだわずかに残っている理性で問いかける。
系譜を辿る中に一人でも魔法使いがいれば半純血。
先祖に誰も魔法使いがいなければ、正真正銘のマグル。
実は最近この種別の違いを知り、俺たちは自分たちが半純血に分類されるのだと気が付いたのだ。
俺たちはマグルではない。
それは魔法界いるこいつらが、一番よく知っているはず。

「へぇ、だから？」

表情を変えずにそう聞き返す佐久間に、小さく唇を噛んだ。
ああ、そうだ。
純血でなければ、意味がないのだ。
スリザリンの連中はとにかく選民思想と純血へのこだわりが強い。
それ以外の出生に関しては、マグルだろうが半純血だろうが、奴らの気分次第で無作為に攻撃の対象になる。
そんなクソみたいな基本的な情報さえ、すっかり忘れていた。

「どうしてずっと俺に付き纏うの」
「お前が純血じゃないのにスリザリンに入ったから」
「そんなルール、聞いたことない」
「ルールなんかより、スリザリンの歴史の方が遥かに古いんだよ」
「…俺をどうしたいの」
「寮から出てけ」

それが出来ないと分かっているのに。

「要求がめちゃくちゃ過ぎる」

そしてとてもじゃないけど話にならない。
胸の辺りでつっかえていた怒りが、今にも溢れてきそうだ。

立ちあがろうとするふっかの肩を押さえつけた男も。
佐久間の後ろにくっついて笑っているだけの頭の悪そうな男たちも。
明文化されず、到底理解もできない独自のルールの数々も。

「……阿部ちゃん？」

本人にはどうすることもできない理由で差別されるづけるなんて、全くもって馬鹿げている。
俺だけならまだしも、こんな卑劣な手を使って、ふっかまで巻き込むなんて。