魔法と思春期 skab (ページ28)

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「佐久間…」
「佐久間先輩、だろ」

図書館の通路と学習スペースの入り口とを塞ぐように取り囲んでいるのは、俺と同じスリザリン生。
人数は五人。
初日以来談話室でよく見かける佐久間と、その取り巻きの男たち。
何の用ですか？なんて聞くまでもない。
「ちょっと顔貸してよ」と、集団の真ん中で偉そうに腕を組み、大きなどす黒い瞳をこちらに向けている佐久間の、明らかに何かを企んでいるような笑顔に嫌気がさす。
入学式の翌日からずーっと、継続的に俺に嫌がらせを続けている主犯はこいつらだ。

「阿部ちゃん誰か呼ぶ？」
「いい。大丈夫」

素早く言葉を交わし、俺はふっかを庇うように一歩に出た。

「ふっかは先に寮に帰ってて。もし途中で先生を見つけたら、よろしく」
「……分かった」

ふっかは何かを言いかけたものの大人しく指示に従い、俺の横をすり抜けようとした。
ふっかは他の寮生だし解放するだろう。
そう思っていたのだが、取り巻きの一人が体を押し出してそれを阻止してきたため、実際には通路に出ることすら出来なかった。
ふっかが苦々しい表情のまま立ち止まり、反動で黄色のローブの裾が揺れる。
ふっかだって弱くはない。
だけど手を出せば届いてしまうほどの至近距離で睨み合っているふっかと男との体格差に、背筋がぞくりと粟立ち、咄嗟に声を上げた。

「この人は関係ない」

俺の言葉を受けた佐久間が、楽しそうに笑う。

「関係あんだよ。こいつもマグルだろ」

「やれ」と短く佐久間が合図を送った瞬間、ふっかがガクンと崩れ落ちた。
目の前にいた男が、ふっかの足を払って転ばせたのだ。

「ふっか！」
「阿部ちゃん大丈夫！」

ぐるりと視界が歪み、眩暈にも似た感覚に襲われながら両足に力を込める。
ゲラゲラと笑う取り巻きの声が、どろりと耳の中に流れてくるような感覚。
落ち着け、そう言い聞かせて鼻から大きく吸った息が、肺を満たしながら言い表せないほどの怒気を帯びて、全身をくまなく駆け巡る。
腹の奥底で、溜まりに溜まった汚い憎悪が溢れ出す。

今こいつらは、魔法を使ってきたわけじゃない。
ふっかだって受け身を綺麗に取ったおかげで、手のひらを床につく程度で済んでいる。
大したことないって分かっている。
頼むから冷静になれと、俺に訴えかけているふっかの視線に気が付いていないわけではない。
でもそれ以上に、経験したことのない怒りが勝って、指先が震えてしまうのだ。
理性が、暴走しかけている負の感情に飲み込まれていく。