魔法と思春期 skab (ページ26)

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「てかさ、俺が行かないって駄々捏ねたらどうするつもりだったの？」

魔法が使えるのは魔法界のみ。
だから、二人揃って入学…ないしはこちらに来られなければ、意味がないことをふっかも理解している。

「俺だけ入学してたよ。で、戻り次第ふっかの足を治すつもりだった。法を犯してでもね」
「目マジじゃん怖っ！良かった〜俺もこっち来といてっと…あったあった！」

ほら阿部ちゃんいっくよー、と力の入らない声でふっかが本を投げて寄越す。
片手で受け取った背表紙には『誰でも分かる初心者向け変身術』と書いてあった。
ふっかは近くにあったもう一冊の本を手に取り、そこそこの高さから一気に飛び降りる。
「ねえ危ないから」と呆れて注意する俺をよそに、しっかりと両足で着地すると、中指と人差し指を立てながら「よゆーよゆー！」と子供っぽい笑顔を見せてきた。

図書館には幅のある長い通路が何本か通っていて、そこから枝分かれするように四人まで座れる学習スペースを設けた袋小路のような空間がある。
いつもの場所に参考書を持ち寄り、夕食までの間にそれぞれ出された課題をこなす。
今日は薬草学の穴埋め問題。
すでに終わらせている俺は、ふっかの隣で時間を潰して待っている。
分からないところがあったら教えてーと言われてはいるが、今のところ躓いている様子はない。
このまま順調にいけば、あと二十分くらいで終わりそうだ。

「編入の扱いで四年生からスタートとか、最初は絶対無理だと思ったけど、案外どうにかなるもんだよね」
「学習範囲が思っていた以上に狭いのと、それ以外の教養があっちで受けた義務教育でどうにかなるとは思わなかったしね」
「高校の授業の方が難しかった気がするわ」
「確かに。日本の教育制度って充実してたんだなって思う」

羽ペンをこまめに動かしていたふっかが顔を上げた。
こちらを見て口の端を持ち上げる嫌な笑い方をしてくる。

「でも俺ちょっとだけ、一から箒に乗る授業からやりたかったな〜。俺らのとこでいう、自転車の乗り方を教わるみたいな感覚なんでしょ？」
「らしいね。でもそしたら小学生くらいの子と一緒に授業受けることになってたけど、ふっかはそれで良いの？」
「いや、やっぱ無理だわ」

ちっちゃい子に戸惑ってる阿部ちゃん見たら多分笑っちゃう。そう言いながらふっかはニシシと笑って、また参考書に視線を落とした。
白くて綺麗な指先で分厚い本のページを捲り、羽ペンを動かす音だけが聞こえていた。