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色々なことを適宜乗り越えつつ、高三になってからは、自分なりに真面目に学校に通っている。
得意科目だった体育はほぼ見学するようになったし、膝下が出る服は避けるようになったけど、それ以外の日常生活で不便を感じることはまだない。
後遺症が残らなかったのも不幸中の幸いだった。
それに養成所を辞めてからは、今まで出来なかったことをたくさん経験できた。
放課後に友達と遊んだり、人生初のバイトをしてみたり。
毎日刺激的なことばかりで、これはこれで楽しかった。
気がつくと夏休み。
いつも通りの時間に起きてしまい、スマホのカレンダーを見てもう一度ベッドに体を沈める。
仕事や舞台のない夏休みなんて何年ぶりだろう。
部屋の天井をぼーっと見ながら、何しようかなぁ、彼女でも作ろうか、てか俺受験生じゃん、なんて頭の中で計画を立てていると、ノックもなしに勢いよく部屋のドアが開いた。
「おら起きろふっか!」
続いて聞こえてきた懐かしい声に驚き、俺は文字通り飛び起きる。
「えっ、阿部ちゃん?!」
驚く俺に構うことなく、阿部ちゃんは足音を立てながら部屋の中に入ってきた。
また身長伸びたなぁとか、少し日に焼けて黒くなったなぁとか思っていると、頬を両手でがっしりと掴まれて上を向かされる。
人当たりのいい笑顔に騙されがちだけど、阿部ちゃんの本来の目つきは三白眼で鋭い。
それがハッキリと見て取れるということは、つまり、めちゃくちゃ怒ってる。
今まで見たことがない阿部ちゃんの表情に、背筋に氷を落とされたような寒気がした。
「お前さぁ、マジで何やってんの?」
いや、治安悪いな。
久々に聞いた阿部ちゃんの「お前」呼びに口元が引き攣る。
突然現れた阿部ちゃんから逃げようにも、信じられないくらいの力で両頬を押さえつけられ、顔をそらすことさえできない。
俺いま絶対変な顔してる。
「あ、その、養成所の件は……」
何か言わなきゃ。
そう思い、四ヶ月前に送ったメールの内容を直接謝ろうとした。
だけど阿部ちゃんは、俺の言葉を押し除けると、とんでもないことを言ってきた。
「辞めたから」
「……は?」
「俺もさっき、養成所辞めてきた」
「え、阿部ちゃん何言ってんの?」
どういういこと?
アイドルになる夢は?
阿部ちゃんが俺から一旦手を離し、鞄の中を漁る。
混乱する俺の目の前に突き出してきたのは、見覚えのある白い封筒だった。
「一緒に魔法学校、行くよ」
「え」
「俺がふっかの足、速攻で治すから」
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みな(プロフ) - はじめまして。面白いです。ホウキとか杖とかも出てくるんでしょうか?続き楽しみにしておきます。 (9月15日 6時) (レス) id: 2fd29c3102 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらちね | 作成日時:2023年9月13日 14時