魔法と思春期 skab (ページ21)

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幸いなことに、俺たちの住んでいる地域や通っている学校は離れていたので、日常生活で阿部ちゃんに会うことはない。
お互いの家は何度か行き来したことはあるけど、俺の家は駅からだいぶ歩いた住宅街にあるから、さすがの阿部ちゃんでも場所なんて覚えてないだろう。

だからきっと、俺と阿部ちゃんとの関係は終わり。

寂しくないと言えば嘘になるけれど、でも、阿部ちゃんだけに抱いていた重く沈んだような気持ちが軽くなったのも事実。
不慮の事故で夢を諦めることにはなったが、仲間の応援はこれからも続けていくつもりでいる。
いつか近い将来、阿部ちゃんがデビューするってなった時は、舞台とかコンサートとか絶対に行くし、なんだったらファンクラブにだって入っちゃう。

頑張れよ、阿部ちゃん。

なんて自分に都合よく、誰に話すわけでもないのに聞こえの良い言い訳を並べて未練を断ち切った。

あらためて自分の現状に向き合った俺は、少しだけ落ち込んで、少しだけグレた。
目に見えて右足の形が曲がっていることに、言葉にならない悲しさとか、苛立ちとか、そういう負の感情が時どき襲いかかってくる。
そんな日は何をしてもダメだし、夜も中々眠れない。
ちょっとしたストレスならゲームをすれば発散できるが、こればっかりは一度体の内側にヘドロのようにへばりくと中々消えてくれず、後遺症のように俺を苦しめる。
そんな時は、気分転換に深夜のコンビニに出かけると少し楽になる。

その日もいつものように家を抜け出し、財布だけを持って深夜のコンビニに向かっていた。
店内には俺と、それからやる気のないバイトの兄ちゃん。
特に深い意味はない。
あえて言うなら、魔がさした。
適当に選んだアイスと一緒にレジ袋に入れられた煙草が、その時の俺にはご利益のあるお守りのように見えた。
家に帰ると一旦リビングを通ってから部屋に向かう。
アイスを冷凍庫にしまい、キッチンの引き出しからライターを拝借する。
部屋に戻り、静かにベランダに出て見様見真似で吸ってみたものの、初煙草は死ぬほど咽せて失敗に終わった。
独特な苦味だけが口の中に残り、後味は最悪だった。

机の上に煙草とライターを放り投げて眠りにつく。
翌朝になって俺を起こしに来た母ちゃんにそれらはあっさりと見つかり、それはそれはこっぴどく怒られた。
煙草は父ちゃんに没収され、「母ちゃんに心配かけんな」と珍しく小言をもらって俺も目が覚めた。
煙草の一件はそれで終わり。