魔法と思春期 skab (ページ20)

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狙ってました？と聞きたくなるくらい、車は歩いていた俺だけを上手に轢いた。

何が起こったのか把握するより先に、車がぶつかった衝撃で意識を失った俺は病院に担ぎ込まれた。
気がついた時には身動きが一切取れない状態でベッドの上。
診断結果は全身の打撲と両足の複雑骨折。
あと肋骨も折れていた気がする。
そこそこ大きな事故だったらしい。
俺の名前は伏せられた状態で、新聞にも載り、ニュースにもなったって聞いている。
詳しい状況は忘れてしまったけど、右足がタイヤに巻き込まれて、かなりヤバい状態だったらしい。
三回の手術ののち、どうにか支えなしで歩けるようにはなったものの、右足はパッと見ただけでも分かる程度に湾曲してしまっているし、日常生活で歩く以上のことは難しいと言われてしまった。
もちろんこんな足じゃ、ステージに立つことも、ダンスだって踊れやしない。

家族は命があっただけでも良かったと、歩けるようになった俺を見て泣いて喜んでくれたけど、こっちとしては全然、これっぽっちも嬉しくない。
ステージに立てないって、フツーに困るっての。
俺の取り柄、それしかないのよ。
そこだけにベットしてきた人生なのよ。

入院生活とリハビリは三ヶ月にも及び、その間にもいろいろな人がお見舞いに訪ねてきて、俺を励ましてくれた。
阿部ちゃんなんてレッスンの前にわざわざ遠回りして病院へ寄り、夜遅くまでのレッスンが終わると、その日のうちに今日のレッスンの内容とか振り入れの動画をこまめにメールで送ってくれた。
可哀想に、阿部ちゃんは、俺が戻ってくるもんだと信じていた。
ただの骨折だって。

もし何か聞かれるようなことがあっても、俺から話すまでは足の状態を言わないで欲しいと家族には口止めをしている。

結果、なかなか言い出せずに、退院するまでのあいだ、阿部ちゃんからのメールを受け取り続けた。

高校三年生に上がり、退院が決まったと同時に養成所を辞めた。

「ごめんね」

これまでの感謝と、無責任な謝罪の言葉を文末に綴ったメールを阿部ちゃんに送り、ケータイの連絡先から『阿部亮平』の項目を削除する。
合わせる顔がないし、俺としては会いたくない。
家族を含め、みんなの前ではひたすら気丈に振舞っていたけれど、じわじわとヒビが入っていくような感覚に、心はすでに限界だった。
罵られても良い、嫌いだと思われても良い。

阿部ちゃんから離れたいと、生まれて初めて思ってしまうくらいには。