魔法と思春期 skab (ページ19)

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平穏な日常は続いていく。
学校へ行って、レッスンを受けて、一緒に舞台やテレビに出て。
阿部ちゃんと切磋琢磨する毎日はマジで楽しかった。

学業もお仕事も順調にこなしていたその年の十二月。
先にデビューした先輩のサポートという形で出演していた舞台が、無事に千秋楽を迎えた。
もちろん阿部ちゃんも一緒。
今回初めて三番手くらいの役を貰えたとはいえ、まだまだ下っぱで送迎用の車がない俺たちは、いつも通りその足で劇場から帰宅する。
帰りがてら毎日行っていた二人だけでのダメ出しも今日で最後。
気恥ずかしくならない程度に労いの言葉を送り合い、白い息を吐き出しながら夜道を歩く。
車に乗り込む先輩を見送り、スタッフさんに挨拶をしていたらすっかり遅くなってしまったせいで、ほとんど人気がない。

「あー、明日からまた学校かぁ」
「サボっちゃダメだからね」
「ほーい」
先生みたいなことを言う阿部ちゃんに笑った。
年が明ければ、俺はいよいよ高校三年生になる。

鼻先を掠める師走の渇いた冷気に「寒い」を連呼していると、ふと隣の阿部ちゃんの足が止まった。
何か落としたのかと思って俺も立ち止まると、

「ふっかはさ…辞めたりしないよね？」

真剣だけどどこか怯えたような表情をした阿部ちゃんが、俺をじっと見つめていた。

前にも同じことを聞かれたことがある。
たしか俺が、中学三年生に上がった時だった。
ただでさえ先の見えない芸能界、それもアイドルという職を目指すにあたり、並大抵のメンタルではやっていけない。
ましてや芽が出ない、結果が出ないならなおさらである。
心をしっかり持っていなければあっという間に不安に押しつぶされる。
それに耐えきれなくなって、人生にやってくる節目節目を言い訳に養成所を去る人間を山ほど見てきた。
阿部ちゃんは俺を信用していないわけじゃない。
だけど絶対に埋まらない年齢差が俺たちにはある。
俺の方が先に来てしまう人生の分岐点に、きっと、この時期だけは、不安で仕方なくなるのだろう。

「辞めないよ、絶対」
三年前にも言った言葉を阿部ちゃんに届ける。
しっかりと、阿部ちゃんを蝕む不安ごと取り除けるように。

「だからさ、阿部ちゃんもぜってー辞めんなよ」
なんて、さっきまで俺が演じてた役になりきってカッコつけて言ったのにさ。

運命って、マジで意味わかんないよね。

家族みんなで出かけた初詣の帰り道に、居眠り運転をした車が突っ込んでくるなんて夢にも思わないじゃん。