魔法と思春期 skab (ページ12)

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声のボリュームなんかお構いなし。
怒ったような口ぶりで静まりかえる食堂の真ん中をズカズカと歩いて来たのは、俺と同じ色のローブを纏った塩顔のイケメンである。
反射的に「うわっ」と顔を顰めてしまったが、向こうが俺に気がつく様子はない。
てか寮にあんな綺麗な人いたっけ？
なんて考えを巡らせている間に、塩顔のイケメンはあっという間に舘様の側まで近づいた。
舘様は驚く様子もなくニコニコと微笑んでいるけど、対する塩顔イケメンはどこかイライラとしていて不機嫌そう。

グリフィンドールとスリザリン。
犬猿とか因縁とか、そんな言葉がぴったりな二つの寮。

例に漏れず雰囲気はまさに一触即発という感じなのに、周囲の人たちは注目はしても誰も止めようとはしない。
それどころか声を抑えるように口元に手をあてている。

なんで？

キョロキョロと周りを見回している俺の横で

「出た」

小さくふっかが言った。
「え、なにが？」
「ゆり組」
「は？え、なにゆり組って」
続けようとした俺の目の前にふっかの綺麗な指。
にんまりと笑うと「まあ見てろって」と二人を静かに指差した。

相変わらず塩顔イケメンが舘様に詰め寄っている。
美人は怒ると怖いと聞くが、なかなかの迫力だ。

「広間で待ってろって言ったじゃん」
「待ってたよ。でも約束の時間になっても翔太は来なかった」
「だっ、て、それは…」
寝坊しちゃって、と翔太と呼ばれた塩顔イケメンが言い淀んだ。

ん？

「でも、間に合って良かった」
「当たり前だろ、今日は一緒にご飯食べるって約束したじゃん」

んん？

「朝苦手なのに頑張ってくれたんだね」
「そっ、そんなんじゃねえし！」
「だいぶ慌ててたのも知ってるよ」
「…からかうなよ」
「からかってなないよ、嬉しいの。ほら、それ貸して」

そう言って舘様は翔太先輩の手の中でぐしゃぐしゃに握られていたネクタイを優しく取り上げると、一歩近づいて首にかけた。
鼻先が触れ合いそうなぐらいの距離でネクタイを結ぶ舘様の行動に、食堂のあちこちからヒィ、なんて小さな悲鳴が上がっている。
翔太先輩は突き放すどころか、満足そうにされるがまま首元を舘様に晒していて。
二人の間の、誰にも立ち入れない雰囲気に、俺も思わずゴクリと喉を鳴らした。

なんというか、うわあ、マジか。
微笑み合う二人の背景にお花が見える気がする。
ぎゅっと切なくなった胸の辺りを鷲掴み、隣でもしゃもしゃと呑気にベーコンを食べているふっかに寄りかかった。