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朝比奈さんと手を繋ぎひたすら幹線道路沿いを黙って
歩く
コツコツコツと響くヒールの音が突然ゴッって音がして
隣に居たはずの彼女は地面に座り込んで
片方の靴が道路に転がっていた
彼女の前に屈んで
「大丈夫？」と声をかけると
「痛い、痛いよ、岩本くん…痛い」って泣き出した
わんわん子供みたいに泣く彼女
転げた靴を拾いにいくと溝に引っ掛けたヒールは
見事に根元が折れていた
拾って泣く朝比奈さんのところへいく
「このヒール高かったのに〜」ってまた泣くから
笑ってしまった
「はい、じゃ、乗って」と背中を向けると
「痛いよぉー」っていいながら俺の背に乗った
俺の胸の前でヒールを持って
「このヒール、ふっかに振られた時に買ったんだ」って
ポツポツと話す
俺はただ彼女の独り言に耳を傾けた
俺には分からない二人の経緯があって
それは残念なことに結ばれることが無くて
お互いがお互いに気持ちを残したまま
終わってしまった、そんな風に感じた
「なんで、好きなら好きって言わないの？」
「言えるなら言いたかったよ、私も」
「じゃあなんで？」
「もぅ、うるさい！いいの、もう、終わったんだから」
「うわっ、やめろよ」彼女は俺の髪の毛をくしゃくしゃ
にした
「岩本くんの髪柔らかいね」
「なに？誰と比べてんの？」
「比べてなんていませーん」
朝比奈さんの涙はすっかり止んだようだった
「岩本くんて、優しいね」
「そうっすか？普通っすよ」
「ふふ、いい後輩もったなぁ私」
「部下っすけどね？」
「部下だけど、後輩でしょ…それに部下って言葉
キライ」
「なんで？カッコいいじゃん、部下がいるってことは
偉い人ってことじゃん」
「なんか、偉そうじゃない」
「役職が上がれば給料だってあがるし、いいことも
あるでしょ」
「給料なんて、ぜーんぜん、だよ
責任ばっかり増えて、女のくせに、可愛げないとか
上司が彼女って萎えるとかそれ、セクハラだから！」
「うわっ、うるさ…てか聞こえてたんだ」
「嫌な話は聞こえるのよ、たまにはいい話聞きたいよ」
「じゃあ、俺の知ってる朝比奈さんのいい話…
朝比奈さんはいい女で、普段は出来る女気取って
るけど、実は不器用で、好きな男に真っ直ぐ想い
届けられない、不器用で可愛い女の子」
「なぁに、それ、褒めてる？
でもなんだか嬉しくて泣けちゃうじゃん…」
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作者名：おさと
| 作成日時：2022年10月27日 14時
