雨と君の涙 (ページ30)

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第28話ページ30

Aside

SLHさんとの練習も終わり楽しい気分のまま私は家に帰った。

部屋に入り一息つくと部屋の隅にある固定電話に留守電が入っていることに気づいた。

私は躊躇いもなく再生ボタンを押す。

すると。

『……もしもし。』

少しの沈黙の後、女性の声がした。
聞き覚えのあるその声を聞き私は固まる。

………お母さん……

私は呼吸が荒くなる。

それは3年ほど前から仕事で海外に行っている母からだった。
とても久しぶりに母の声を聞いた気がする。

『…Aの電話で間違いないわね？お母さんだけど。久しぶりの連絡がこれってちょっと申し訳ないんだけど…今度お母さん再婚することになったの。それで、今Aがいる家に帰国して住もうかと思ってるの。まあ詳しいことはまた後でかけ直すから。
それじゃあね。」

私は音声が終わるとともに力なく座り込んだ。

…誰か嘘だと言って…

母は昔から仕事ばかりで家にいることの方が少なかった。

両親が離婚してからはさらに母は忙しくなり、ほぼ家に帰ってこれず私はずっと1人で過ごした。

もちろん、私を養うために忙しく働いてくれているのは分かる。
でも朝も起きても、帰ってきたときも、誕生日の日でさえも全部1人ぼっちなのはとても苦痛だった。

しかし母は私のために働いてくれているのだ。

母に迷惑はかけられない。
私はずっと耐えた。

母はとても厳しい人だ。
ただ昔はちゃんと褒めてくれたし、笑いかけてもくれた。

でも離婚してからは笑顔が消え、私を叱り付けることが多くなった。

私は何も出来ず必死でいい子を演じた。

だが母の求めるいい子にはなれなかったようだった。
母の呆れたような諦めたような表情を見るのがとても辛かった。

何をやっても上手くいかない、そんな日々が続き、いつしか私は私のことが嫌いになっていた。

私が高校入学して半年ほど経ったある日。
母が急に仕事の都合で海外に行くことが決まった。

てっきり私も一緒に行くと思っていたのだが、母の口からは衝撃の言葉が飛び出た。

母「お母さんは海外に行くけどAはここにいていいわよ。ここの家を手放すのもねぇ？今までだって実質一人暮らしみたいなものだったし、あんまり変わらないわよ。今から高校転校するのも嫌でしょう？」

そんなこんなで母は海外へと行ってしまった。

そこから今日まで全く連絡が来ていなかった。

もし本当にこっちに帰ってくるのであれば私はこの家を出て行かざるを得ない。

…前途多難だ。