真夏の原動力。3 ページ3
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「そろそろ再開しまーす!」
スタッフさんの声が、練習室に響いた。
それを聞いたおのおの動く音で
練習室が一気にざわつきはじめる。
鏡に目をうつすと、
涼太も腰をあげて、練習に戻ろうとするところ。
「ありがと、」
「ん?」
「飲みもの。ありがと」
本当は飲みものをくれたことだけじゃなくて、
声をかけてくれたこと、
俺だけに先に仕事のことを教えてくれたこと、
話して頑張ろうと冷静になれたこと、
いろいろ含めての、ありがとう。
他のやつには簡単に言えるのに、
ありがとうさえ
何だかトクベツに思えて、ちゃんと言えない。
今もわざわざ、飲みもののお礼だと
言い訳するみたいにつけ加えたりして。
「うん」
でも、そんな俺に返してくれた
短い返事についてきたのは、
さっき仕事が決まったことに
おめでとうと言ったときと、同じ笑顔だった。
あー…やっぱり俺、
涼太のこと、好きだわ。
涼太の声が、笑顔が、
存在していること自体が、
なぜか俺を全肯定してくれてるって
昔からずっと、そんな気がしてならない。
俺も腰をあげて、立ち上がった。
レッスン室の中央に向かう。
「やれるだけ、やるしかないっしょ」
奮い立たせるようにつぶやくと、
後ろからふふっ、と涼太が微笑む声が
聞こえた、気がした。
【真夏の原動力】
⁂2022年夏
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作者名:ほたて | 作成日時:2023年1月4日 20時