君の彼氏になりたい。 (ページ31)

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やっとこの日が来た。
早かったような、長かったような。
区切りが来たら、けじめをつけようと思っていたこの仕事。
気付けば他の仕事を知らない、随分世間知らずな大人になってしまったかもしれないけど。

「Aさん、本当に最後なんですか？」

「絶頂期に引退なんて格好良いよね…」

お店に出勤して、あっという間に満卓になった店内。
お世話になったお客様と女の子とスタッフと過ごすのも、これが最後かと思うと込み上げるものがある。

「いつも綺麗でしたけど、今日が1番綺麗です」

『あは。ありがとう、何で皆泣くの？』

「寂しいからに決まってますよ！」

誕生日ということもあって、たくさんのお客様がびっくりするくらいのシャンパンをおろしてくれた。
今日は潰れる覚悟でいたのに、女の子やスタッフが進んでボトルを開けてくれる。
このお店で良かったな、と心から思う。

最後のお客様を見送って、一人一人に挨拶をしてお店を後にする。
終わった。
実感がない。

「Aさん！今日、何でドレス黒を選んだんですか？」

『…秘密。ありがとう、頑張ってね！』

エレベーターが閉まって、お店のビルを出たら夜風が気持ち良い。
煌びやかなこの街の景色も最後か、と思うけどやっぱり実感が湧かない。

「お疲れ様」

『…蓮くん？！何で、』

「どうしても最後に仕事姿のAさん見ときたかったから。…これ、失敗したかな」

蓮くんが抱えていたのは、大きな真紅の薔薇の花束。
皆から貰った花束が入ったショッパーをそっと置いて、愛しい姿に抱きついた。