161 ページ12
.
亮平が見たことがない私がいるように、私にも見たことがない亮平がいる。
離れ離れになっていたこの間、私は亮平がどんな風に先生になったのかを知らない。
「そうだ！私、亮平のアルバム見たいな。」
写真でもいい。
私がいなくなった後の亮平を知りたい、唐突にそう思った。
阿部「ええー？俺のアルバムなんて面白くもなんともないよ……？」
「そんなことない！知らないところを知っていきたいの。ね？お願いっ！」
阿部「……もう、Aにお願いされて俺が断れるわけないでしょ。」
そう言って眉を下げて笑った亮平は私に押し切られるような形で、アルバムを持ってきてソファの前のテーブルにそれらを置いた。
中学、高校、大学、とテーブルの上に並ぶアルバム。
阿部「Aが見てると思うと恥ずかしいから、温かい飲み物でも用意してくるよ。」
「あ、それなら私も一緒に、」
阿部「温めるだけだから平気だよ。まあ、アルバムはさらっと流し見してもらえると有難いけど。」
そう言って苦笑した亮平は、私の頭をポンポンと優しく撫でてからキッチンへ消えていく。
「じゃあ一番変わってなさそうな大学からかな？」
私は意を決して、大学のアルバムを手に取った。
＿＿＿パサっ。
無邪気にアルバムを捲った私の目に写ったのは、アルバムからこぼれ落ちた1枚の写真。
「え、」
女性とふたりで並んで笑う今よりも少しあどけない大学生の亮平は私が見たことない顔で。
胸がズキッと音を立てる。
……何、これ。
私は慌てて写真ごと、バタン、とアルバムを閉じた。
心臓がドクドクとうるさい。
頭の中はぐるぐると余計なことまで考えて、想像して……。
分かってたはずなのに。
亮平にだって亮平の人生があって。
知らない顔だってあるんだって。
空白を埋めることは出来なくても、これから知っていけばって。
そう、思ったはずなのに。
「……彼女の写真なんて挟んでおかないでよ、バカ。」
私は私の隣に立つ亮平しか知らないけど、きっとたくさんの子が隣に並んできたんだよね。
そんな当たり前のことが、目の前に突き付けられるとこんなに苦しくて仕方が無いんだって、私はわかっていなかったんだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 521人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たぬ(プロフ) - 朝桐さん» 最後まで読んで頂けただけでも嬉しいのに、宝石みたいにキラキラした素敵な感想をありがとうございます。頂いた言葉全てが宝物です。こちらこそ出逢ってくださりありがとうございました。 (3月21日 23時) (
レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました！涙なしでは見れなくて、とても生きててよかったと、見れてよかったと。運命といいますか奇跡にただ救われました。執筆活動お疲れ様です。今後のたぬ様の日々が愛に溢れますように。本当にありがとうございました！ (3月18日 22時) (レス) @page43 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - みみみさん» お読み頂き、素敵な感想までありがとうございます。楽しんで頂けたのなら本当にすごく嬉しいです！こちらこそ、ありがとうございました！ (9月6日 23時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - 今日初めて見つけたこの作品、１話から今まで全部いっきに読みました☆本当に素敵な作品でした😊ありがとうございました！！ (9月2日 17時) (レス) @page43 id: 10d256d720 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - 桜色さん» とっても優しくて愛のある感想を送ってくださってありがとうございます。どの言葉もとても勿体ないくらいですごく嬉しいです。最後まで読んで下さってこんな素敵な感想まで下さって、こちらこそありがとうございます！ (6月5日 22時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たぬ | 作成日時：2022年8月24日 22時
