冬の匂いに包まれて【雪】 (ページ10)

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『なんで携帯隠したの』

「こうでもしないとAさん逃げるでしょ？」

そう言いながらちょっと眉をさげて笑う目黒

俺は質問答えたんで次はAさんの番ですよって
向かい合ったまま長い脚を伸ばしてくる

「なんで俺のこと避けたんですか？」

『……私全然知らなかったんだもん、先輩なのに。だから勝手に落ち込んで八つ当たりしちゃったごめんね』

一番最初に教えてくれてもよかったのに、って呟く

一度話し出したら止まらなくて
ついつい言わなくてもいいことまで喋る私の口

目黒困ってるだろうなぁって焦りと不安がにじみだした頃

「Aさんだからですよ」

目黒の声に下げていた視線をあげれば
ちょっとむすっとした顔の目黒に見つめられる

「言えるものならとっくに言ってます。Aさんだから、どう言っていいか分かんなくて」

『……目黒も悩んでくれたの？』

「当たり前じゃないっすか」

『そっか。ならいいや』

「ふはっ、まじでAさん単純」

目をくしゃくしゃにして笑う目黒に
これはやばいなぁってやっと気づいた

だってほら、心臓がこんなにも早く動いてる

なんとなくお互いの交わる視線が甘くて
ふわふわしてしまうのは間違いなく目黒のせい

『う～、寒い』

２人でもう暗い会社のエントランスを出れば
さっきよりも一段と空気が冷え込んでいて自然と肩に力が入った

少し後ろからAさんって名前を呼ばれて
振り返ると同時に、優しいぬくもりが首を包んだ

『……いいの？』

「明日返してくださいね？」

次の日の朝

貸してもらったマフラーを忘れてしまって謝れば
“だと思いました”って笑う目黒

ちゃっかり私の家にくる約束をとりつけた彼は
実は相当の駆け引き上手かもしれない

fin.