冬の匂いに包まれて【雪】 (ページ44)

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一歩、給湯室に入った瞬間
耐え切れなかった涙が零れ落ちた

自分のふがいなさと、何もできなかった悔しさと
深澤さんに迷惑をかけてしまったことも。全部。

「こんなんじゃ、後輩すら失格だなぁ……」

ひとしきり泣いたあと時計を見れば、結構時間が経っていた
ちょうどみんなも帰ったころだろうし良かったかなって思いながら重い腰をあげた

『え、なんで……』

「ん？あ、おかえり～」

私のデスクの上だけ電気が点いた薄暗いオフィスに
深澤さんだけまだ残ってた

椅子に座ったまま、床をけってくるくるしてる

『あの、深澤さん。今日は本当に申し訳「まだ花粉すごい？」

『え？』

「今日はいっぱい花粉とんでたのかなぁって」

そう言いながら隣の椅子を指さすから
大人しく導かれるように座った

深澤さんはそんな私を横目で追って
座ったのを確認すると、床をひと蹴り

膝と膝がくっつきそうな距離に思わず距離を取ろうとすれば、膝の上に置いていた手をそっと握られた

『っ、あの』

「花粉早くおわんないかねぇ」

あぁ、そっか

私の目が赤いのも、私自身への怒りも不甲斐なさも。
全部花粉のせいだって言ってくれるんだ

なんで、

『っ、なんでそんな優しいんですか』

「ん？」

『私のせいでみんなにも深澤さんにも迷惑かけたのに……、なんで優しくなんてするんですか』

深澤さんの優しさは毒だ

じわじわ、じわじわ広がって

きっともうこの優しさを知ってしまったら

逃れられない