冬の匂いに包まれて【雪】 (ページ32)

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簡単に自己紹介をして、
店内を見渡せば至る所に貼ってある写真に気付いた

話を聞けば、全部向井さんが撮った写真らしい

人やお花やネコ、犬、鳥などの動物の写真
ほかにもビルとか、よくわからない工事現場の写真とか
道端に置いてある誰かの忘れ物とか

向井さんには世界がこんな風に映ってるんだ、となんだか少し泣きそうになった

ほい！お待たせ～！
向井特製カフェオレ！と、出してくれたそれには

『かわいい……』

「やろ？ラテアートつき～」

『このお花なんですか？』

「キンモクセイ！さっき散歩しとったらな、ちょうどキンモクセイ見つけてん」

キンモクセイ……
そっか、もう秋なんだ

私はこの半年
こんな風にゆっくり、季節に、時の流れに目を向けたことはあっただろうか

毎日毎日同じことの繰り返しで
心がすり減っていくのに何度も気付かないフリ

「Aさん？」

心配そうに遠慮がちに届いた向井さんの声に
自分が泣いてるんだと初めて気づいた

『っ、ちがうんです。あの、本当に美味しくて』

コーヒーが美味しいことは本当だけれど
泣いてる理由がそうでないことなんてバレているだろう

それでも無理やり笑う私に
ほんまに？よかった、そう優しく笑ってくれる向井さんに心の中であったかくなった

それから、時間があえばお店に寄るようになった

『わ、雪だるま！かわいい！』

「やろ～？絶対Aちゃん来たら、描こうと思っててん」

『嬉しいです、ありがとうございます！』

「今日めっちゃ冷えるらしいし、ちゃんとあったかくせなあかんで？」

『……おじいちゃんありがとう』

「おい！誰がおじいちゃんや！」

いつの間にか、Aちゃんって呼ばれてて
冗談なんかも言えるようになっちゃって

あぁ、向井さの隣で笑えたら幸せだろうな

そう思うようになるには、それほど時間はかからなかった