冬の匂いに包まれて【雪】 (ページ20)

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『阿部ちゃん、ありがとう』

「俺が話したい気分だっただけだよ」

『……阿部ちゃんって』

「ん？」

『すっごいモテるでしょ』

「え！？モテないモテない！」

慌てながら顔の前でぶんぶん手を振る阿部ちゃんはやっぱり可愛くて、女子の私が羨ましいなと思ってしまうくらい

知らないうちにこうやっていろんな人を落としてるんだろうなぁ

優しい阿部ちゃんだからきっと他の生徒にも
こんな風に声かけてあげてるのかな、なんて考えがよぎってさっきまでとはまた違うもやもやが心を覆う

『優しいし、可愛いし』

「まってまって。俺って可愛いの？」

『女子より可愛いです』

「えぇ～、全然嬉しくない」

『誉め言葉なのに？』

え～そっかぁってちょっと考えだした阿部ちゃん

また口がぷくってなってる
うん。可愛いよね、どう見ても。

唸ってる阿部ちゃんを横目に最後の一口を飲み干せば、突然強い風がふいた

『っ、わ！？』

「あっはは、すごかったね今の風」

『今から風吹くよ～って言ってくれればいいのに』

「なにそれ(笑)」

私は必死で風でぼさぼさになった髪を整えようとしてるのに、阿部ちゃんは爽やかに笑ってる

『イケメンの髪は崩れないんですか？』

「だからなにそれ(笑)」

また楽しそうに笑った阿部ちゃん
そして、そのまま私の前髪を優しく整えてくれる

突然の事に思わず固まってしまえば
ん？ってさらに覗き込んでくる

息がかかってしまうんじゃないかって程の距離に
鳴りやまない心臓がうるさい

『……ぁの』

「俺って可愛い？かっこいい？」

『……です』

「ん？聞こえない」

『っ、かっこいいです』

良かったって笑いながら、ぽんぽんと頭をなでる阿部ちゃん

意外と意地悪なんだ
新たな一面を知って、もっといろんな顔が見たくなる

『受験まで、全力で頑張ります』

「うん」

頭に乗っていたはずの手が
そっと前髪をかき分けて、おでこに温くて優しい唇がちゅっと触れた

「ふふ、俺からのおまじない」

fin.