冬の匂いに包まれて【雪】 (ページ16)

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〇緑×塾講師ページ16

〇緑×塾講師

“ここ引っかかる人多いから気を付けてね”って
そんな声と共に黒板をとんとんってする音がする

その音を聞きながらふと下をみれば
ひざ掛け替わりにしていたマフラーが床にすっていたのに気づく

よいしょってたくし上げて前をみれば
聞いてた？というように首を少しかしげた阿部ちゃんと視線がぶつかった

条件反射でうんうん、とうなずけば
ほんとに？って顔をしてからふふって笑う阿部ちゃん

阿部ちゃんでアテレコできそう
なんて、ぼーっと表情豊かな阿部ちゃんを見て考えていればまた聞いてないのがバレてむっとした顔された

「「「ありがとーございました」」」

授業が終わりみんながぞろぞろ出てくのを
少し背伸びしながら目で追っていると、前から教科書やら問題集やらを数冊抱えた阿部ちゃんに話しかけられた

「今日もぼーっとしてたでしょ」

『してたかもしれないけど、してないです』

「なにそれ(笑)もー、ちゃんと聞いててね？」

軽く注意しながらも、ちょっと口を膨らます先生。
ぷくって。なにそれ、女子より可愛い。

阿部ちゃんはここの塾の先生で。
私が入校した時にはもうみんなから“阿部ちゃん”って呼ばれてたから私も同じように呼んでる

「最近はどう？」

『んー、末端冷え性にはつらい毎日です』

「ちょっと！勉強のこと聞いたんだけど！」

『ふふ、勉強はまぁぼちぼちって感じです』

高校３年の春の最後の大会まで部活をやりたくて
夏前のぎりぎりにこの塾に入校した私

大学受験を早くから視野に入れてる子は
１年生から塾に通っているし
２年の夏ぐらいから入る子も大勢いる

そんな中、受験まであと半年もあるかないかで
入ってきた私に厳しい言葉をかけられる事も少なくはなかった
“そもそも遅すぎる”
“こんな短期間で何ができるんだ”とか

でも阿部ちゃんだけは違ったの

“一個一個に全力を注げる子って強いんだよ。Aさんなら絶対できるよ”

そう強く言い放った阿部ちゃんの目は
揺らぐことのない真っすぐな瞳で

嫌みを言われたのは私なのに
なぜだか阿部ちゃんがちょっとむっとしてて
私を信じてくれるその姿に、この人の期待に応えたいって思ったんだ