冬の匂いに包まれて【雪】 (ページ15)

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パソコンと向き合って自然と出るため息

なんだか時計の針が大きく聞こえるし
渡辺のデスクみて今頃楽しんでるのかなぁって思って

頭に思い浮かぶのは渡辺のことばかり

『……早く終わらせてお鍋食べるんだった』

こんな日に残業なんてって悲しくなりかけたけど
そうだ、今日はお鍋を食べるんだ。ケーキも。

そうやって自分に気合をいれて
急いで終わらせオフィスを施錠して外へ出た

『わ、雪だ……』

最寄り駅の改札を抜ければ
空からゆっくり舞い落ちる白い雪

吐いた息は白くなって深い空に消えていった

「お前さ、さすがにクリスマスに残業はねぇだろ」

っ、なんで……

聞き慣れた声の方を向けば
これまた見慣れた顔が缶コーヒーを片手に花壇に寄りかかっていた

『わ、たなべ……なんで』

「ふはっ、そんな驚く？」

『え、だって。今日はあの子と……』

「俺もその予定だったんだけど。何で俺ここにいんの？」

『っ、ばかなの？』

「ぐははっ、ばかって何だよ」

久々に笑いかけてくれる渡辺に安心して泣きそう

鼻を軽くこすりながらすする渡辺
少し赤くなってるのさえ可愛い

『……今日鍋食べたいなって思ってたんだけど』

「うわ、鍋いいじゃん」

『コンビニでケーキも買って』

ちょっと恥ずかしそうに笑った渡辺が
背中に隠してあった箱を前に見せつけてくる

「コンビニでいいの？」

『……あの子のための？』

「中見てみろって」

そう言われて落とさないようにそっと覗けば
抹茶のケーキとモンブラン

……どっちも私の好きなやつ

「これ見てもまだ言う？」

『言わない。渡辺ありがと』

「ん」

特徴的な薄い唇をきゅってして
嬉しそうに笑ってくれる渡辺にあぁ好きだなって思う

「今日のは綺麗に見える？」

『え？』

青色は寂しいって言ってたじゃん、と
駅前のイルミネーションを指さす渡辺

『いつもよりもずっと綺麗』

「残業したのに？」

『……渡辺がいてくれるから、かな』

恥ずかしさをごまかすようにマフラーに顔を埋めれば
Aって名前を呼ばれて見上げた視線の先には、手を差し出してくれる渡辺がいた

「Aと話せない1週間まじで死ぬかと思った」

『私も』

「早く帰って鍋食べよーぜ」

そっと重ねた手はすっかり冷えてて
ずっと待っててくれた渡辺の優しさに青色の光がより一層綺麗に見えた

fin.