：4 ページ6
・
視界が揺れている事に気が付いた時にはもう遅く、ボロボロとみっともなく涙をこぼしてしまったわたし。
｢…っ、ごめんなさい、泣くつもりじゃ……｣
｢いや、俺こそすみません…｣
なぜ彼が謝るのだろうかと思いながらも、言葉と共に差し出されたハンカチを、台本以外手元に持ち合わせていなかったわたしは有難く受け取らせてもらった。
それからほんの少しして、落ち着いたわたしは口を開いた。
｢…今回の作品で、わたし主題歌も担当することになってるんです｣
｢え、凄いじゃないですか｣
｢そうですよね……なんで今までそこを忘れてたんだろう…｣
だいぶ変に考え過ぎてたのかな。
よく考えたら憧れに大きく近付いたんだよ？実力で！
これを喜び、誇らないなんて謙虚にも程があり過ぎるだろう。
今までうじうじ悩んでいたのが急に馬鹿らしく感じてきた。
いける、今なら全てを薙ぎ倒す勢でやって行ける！
そう思いながら腕時計を確認すれば、そろそろ収録再開の時間で。
｢…あ、そろそろ時間……｣
｢ああ、本当だ…｣
お互い立ち上がって、改めて顔を見合わせた時ポロリと要らない言葉が飛び出てしまった。
｢中村さんってもしかしなくてもめちゃくちゃ優しい人ですね？｣
｢え？｣
ほら困惑してるじゃん！
いらん事言わんでよろしいこの口は。
｢あ、いや、初めて共演した時の事覚えてるか分からないですけど、あんな感じだったので嫌われてるのか、自分と同じで人見知りなのか、めちゃくちゃその、簡潔な反応だったじゃないですか｣
｢それは…すみません、初対面だと誰に対しても大体あんな感じで……｣
｢いやいや、全然大丈夫です！わたしも人見知り拗らせてるタイプの人間なのでその気持ちめちゃくちゃ分かりますもん｣
｢？ そうは見えないですけど…｣
｢いやぁ、最初に猫被るのは得意なんですよ…。中村さんと逆で初対面はいけるんですけど、それ以降の立ち回りが下手くそで…｣
おかげで同業者で仲良い人ほとんど居ないんだよな...。
いや、何を話せば仲良くなれるの？って思うんだけどほんとに。
｢ああ…なるほど｣
｢…それはさておき、本当にありがとうございました！中村さんのおかげで今なら彼女たち実力で捻り潰せる気がします｣
｢唐突に好戦的｣
｢今ならやれそうな気がします｣
拳を握り締めてみせると｢程々にな｣と笑われた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 307人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リクス(プロフ) - キュンキュンします、ありがとうございます (2023年1月28日 22時) (
レス) @page19 id: 19eff5b33e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：豚汁 | 作成日時：2023年1月22日 7時
