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「俺もチョコ好きなんだよ」
「なる、ほど……?」
「いる?いらない?」
「え、や、じゃあ有難く頂きます!!」
「うん、そうして」
「どこで偶然見つけたんですか」なんて、その部分を突くのは邪推なような気がしたので飲み込み、「ありがとうございます」とお礼をすれば「どういたしまして」と、少し照れた表情でこちらへと微笑んだ。
その笑顔にきゅう、と胸が締め付けられる錯覚を覚えると同時に、重要なことに気が付いた。
「待ってください、わたし何も差し上げる用意ないんですけど」
「別にいいよ、ついでだし」
「いや流石に貰いっぱなしは申し訳なさが...」
「……じゃあ、これ」
再び鞄の中を漁った中村さんの手から差し出されたのは、この間発売したアニメ主題歌のシングルCDで。
「っこれ、買ったんですか...?!」
「悪いか?」
「いえ、売上貢献誠にありがとうございます。...それでこれ見せて何するつもりですか。ダメ出しですか」
「俺の中のお前はどうなってるわけ?」
「だ、だって……」
「サイン頂戴」
「……へ?」
「サインだよ、サイン」
指でトントンと、CDケースを軽く叩いてアピールする中村さんに対して突然の謎リクエストに首を傾げるわたし。
「なにゆえ…?」
「理由いるの?……月白Aのファンだからってことで」
「えぇ……」
用意周到にも、続いて鞄から油性マジックを取り出した中村さんは、わたしの右手にそれを無理やり握らせた。
気恥しさはあるものの、断る理由もまたないので、まだ書き慣れていないサインをケースの表と中のディスクへ書き、彼へと返却し、わりと良い時間だったので店も出た。
「そういえば、月白さん来週からラジオの収録があるじゃん?」
「ああ、なんかありますね。わたし何も詳細知らされてないんですけどあれ。中村さん何か知ってます?」
そう、来週からラジオ番組を一件受け持つことが決まってるのだけれど、わたしの元には共演者の情報も、どんなラジオをやるのかも何一つ伏せられていて知らされていないのだ。
それを知った中村さんは、少し考えたあと、「じゃあなんでもないわ」と思わせぶりな発言をする。
「それ言われると気になるんですけど一体なに知ってるんですか?」
問い詰めるもはぐらかされまくり、そうこうしているうちに解散場所である駅へと着いてしまった。
「じゃ、気をつけて帰れよ」
「酷い生殺し!」
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リクス(プロフ) - キュンキュンします、ありがとうございます (2023年1月28日 22時) (レス) @page19 id: 19eff5b33e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豚汁 | 作成日時:2023年1月22日 7時