これを装備するにはレベルが足りない！ (ページ22)

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(Side.T)

｢行き先ヒント分かりにくいからなぁ、クロノは｣

｢作品そのものはほんっとに面白かったです。迷子しまくりましけど。迷子しまくりましたけど……｣

｢迷子し過ぎだろ｣

｢直前にDQ9の方やったからその反動が｣

｢あぁ……｣

なるほど、と呟いた中村さん。
どちらかというと、というより遥かに9の方が同じスクエニ作品でもクロノはリメイクなのもあるし、大元からグラフィックが違うし、分かりやすいのだ。

｢中村さんは9どこまで進みました？｣

｢今隠し地図の厳選してるとこ｣

｢出ましたね...。すれ違い通信必須なのがほんと…最近外に出る時必ず持ち歩いてますもん｣

｢分かる。意味もなく遠回りで家に帰ったりとか｣

｢やるやるやります。おかげで体力付きそう｣

｢良い地図手に入れたら俺にも頂戴ね、俺が手に入れたらちゃんと渡すから｣

｢良いんですか！それはもう喜んで！｣

そこからストーリーのここが良かっただとか、あそこで行き詰まったとか、感想合戦に盛り上がったわたしたち。
とはいえお互い明日も収録があるので、そこそこのところで切り上げた。

ボイスチャットを切断し、ゲームもPCの電源も落としたところで、同時にわたしの自制心の糸もプツリと途切れる。

PCの置いてあるデスクからベッドへと移動して、ぼすん、と枕に顔を埋め、ジタバタと足を動かしながらベッドの上をそのままゴロンゴロン転がった。

(良い声過ぎる……無理、耳が死ぬ……)

あの一件以降、なんとか普通に喋れてはいるけれど、ボイスチャット越しの顔がやばい事になってるのは確か。

だって無理じゃない？

ふとした時にあの声で吐息混じりの声聞こえてくるわ、たまに楽しそうに鼻歌歌ってるわ、水飲む時の音も聞こえるわ、なんかこう、生々しいところまでヘッドホン越しに聞こえてくるんだよ？

無理に決まってるじゃん……。

中村さんの演技も中村さん本人も普通に人として好きなんだけど、そもそも｢声｣が好き過ぎて無理。
無理しか出てこないよこんなの。

でもそのおかげで対面で直接話すのは逆に大丈夫になった節がある。
これ以上に至近距離で耳にダイレクトアタック決められることはないからね。

そうは言っても当分はお互い全く別々の収録現場だというのがさっきまでの会話の中で発覚したので、直接リアルで会うことは暫くないだろう。