第1章 - 心の準備が出来ていない - ページ14
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「月白さん」
「……はい」
「目、逸らさないで」
優しくも、だがしかし、絶対逃がさないぞという圧を感じるその視線と声に、身体がビクリと跳ねる。
ああ神様、わたしはなぜこんな事になってしまったのでしょうか。
(Side.N)
何を思ったのか後輩声優である月白さんを誘って夕飯を一緒に食べてから二週間。
お互い忙しくて予定が合わずにいたため、まだFF11を一緒に遊ぶことすら出来ていなかったそんな時、今日再びスタジオと収録時間が被った。
メールでのやり取りはこの二週間の間で何度かしてきたものの、直接会うのは二週間ぶりだった俺たち。
別収録こと、月白さんと同じ作品に出演してる杉田と駄弁っている所に彼女が通りがかったのだけれども...。
「月白さん、おはよう」
「オハヨウゴザイマス……」
固い声でこちらに目線ひとつすら寄越さずに頭を小さく下げた彼女は、キャップを深く被り直しながらそそくさと俺と杉田の前を通り過ぎて行く。
そんな彼女の背を見つめる俺と杉田。
「………ねぇ杉田」
「なんだい中村」
「……俺、月白さんに避けられてるよね?」
「…ソンナコトナイトオモウヨッ」
「嘘つくの下手くそかよ」
細い脇腹に一発軽くジャブを撃ちながら、この二週間の間で何かしてしまっただろうかと思い返してみるも、別にセクハラ発言をした記憶もないし、彼女が俺を避けるような言動をしていた記憶も………
「お前、むしろなんでそんなに月白ちゃんに固執してるわけ?」
「…固執?」
「だってほぼ初対面の人といきなり飯食いに行くとかまずしないお前が、しかも女の子相手に、自分から誘って、え、お前ほんとに中村?」
「失礼にも程があるだろ。……別に、話の流れでついでに誘っただけだし、あるだろそういう事も」
「少なくともお前の辞書にはないだろそれ」
「じゃあ俺には分からん」
「この人見知りコンビめ……」
ブツブツと呟く杉田を放置し、ひとつ引っかかっている事について考えていた。
「なぁ杉田、月白さんに予定聞いてみてくんない?」
「……え?お前とうとう俺を使ってストーカーにまで…?」
「ちげーよ!ちょっと気になる事があるだけだし」
「まぁ良いけど、俺も板挟み嫌だしな……」
「なんか言ったか?」
「なんでもない」
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リクス(プロフ) - キュンキュンします、ありがとうございます (2023年1月28日 22時) (レス) @page19 id: 19eff5b33e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豚汁 | 作成日時:2023年1月22日 7時