実験5 ページ5
『まあ次いこ。えっと、6個目。あなたは90歳まで生きられます。最後の60年間「30歳の肉体」か「30歳の精神」を維持できるならどちらがいいですか?』
「これは即決だ」
『はや。んー……これどっちもいらないってあり?』
「要らないのか?」
『うん。体も精神も衰えちゃうけど、それが老後ってやつでしょ。わたしはそれも楽しみたいなぁ』
「そういう考え方もあるのか」
降谷はそう言って、僅かに目を見開いた。彼を驚かせることができたようで嬉しい。
「僕は肉体だな。動けなくなるのは辛い」
『80くらいまで元気に動き回ってそうだけど』
「でも若い頃と比べたら衰えているだろう。それじゃいざという時に使えないからな」
『……警察に、なるんだっけ』
ん?と視線があげられる。純粋な疑問をもった目だ。
降谷は何も言わない。たぶんこれは、肯定の沈黙。
『人の為に動く降谷のことはすぐ想像できるけど、無理しすぎてそう』
「僕は日本が守れればそれでいい」
『自分のこと守んなきゃ意味ないでしょ』
「そんなことはない。多くの日本人が救えるなら構わないさ」
『……あんたほんとに高2?わたしは嫌だ。ニュースで友達の悲しいお知らせ見たくない』
だって、今ですら頑張りすぎているんだから。
たぶん降谷は自分の身なんて顧みず働くのだろう。たった2年の付き合いでも十分にわかる。降谷はそういう男だ。
さっきから降谷の目ばかり見てるな、と思う。綺麗な青い瞳。それが、僅かに揺れた。
「わかった、善処しよう」
『絶対分かってないだろ。……まあいいや』
「7、自分がどんな死に方をするか、そんな予感はあるか」
『長生きのあとに死ぬこと考えさせるの』
突然、降谷のスマホがピコンと通知音を鳴らす。反射的に見てしまった、ページの上にひゅっと出てくるメッセージ。
〈委員会終わったから教室寄ったけど、取り込み中だったみたいだし先に帰る〉
咄嗟にドアを見るも既に人はいない。
名前までは見えなかった。降谷がいつも一緒に帰ってる人なんていたっけ。
降谷は終礼が終わると女子から逃げるようにそそくさと教室を出る。でも大抵鞄は置きっぱで、1時間もしないで戻ってくる。
わたしがぼけーっと運動部のランニングや雲の流れを見ていると、いつの間に戻ってきた降谷が話しかけてきて、それからなんてことない話が始まる。
わたしが帰らないことに理由はない。強いて言えば、満員電車が嫌だから空くのを待っているくらい。
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ことぅーげ(プロフ) - 完結おめでとうございます!高校生の降谷さんかっこよかったです感動しました! (2018年10月31日 15時) (レス) id: b537020977 (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - こんばんは!完結、お疲れ様でした。さらっと読み返してきました(笑)文字数が足らないので簡潔に、2度目の感想を失礼致します。降谷の感情に確信の持てなかった1度目と、確信を持ってからの2度目。見え方が全然違って読めました。拗らせが成就してくれて嬉しかったです。 (2018年10月27日 23時) (レス) id: 3e157837c2 (このIDを非表示/違反報告)
ユラン@ゆず*(プロフ) - 有紀さん» ミスなんて誰にでもありますから気にしなくて大丈夫ですよ笑。続編も楽しみに待機しておきます!!お気に入り作者登録しましたので、全力待機予定です!(`・ω・´)フンスッ! (2018年10月27日 12時) (レス) id: 2fe76e263c (このIDを非表示/違反報告)
有紀(プロフ) - ユラン@ゆず*さん» あ!かっこよく終わらせたかったのに!!!すみません、ご指摘ありがとうございました!!恥ずかしい(;_;) (2018年10月26日 7時) (レス) id: a38a24a1c3 (このIDを非表示/違反報告)
ユラン@ゆず*(プロフ) - 初コメ失礼致します。無事に完結おめでとうございます!文章量も丁度よく私にはとても読みやすかったです。毎回良いところで区切られるので先を読みたい欲が失くならずに完結までお供出来嬉しく思います。...コメント返信と最後の挨拶が2回繰り返されていますよ(小声)。 (2018年10月26日 7時) (レス) id: 2fe76e263c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有紀 | 作成日時:2018年6月28日 13時