実験35 ページ35
『ね、ちょっと聞いてもいい?』
「答えられることなら」
『さすがに内容は最初に全部確認してたんだよね?』
「ん?あぁ、質問の内容か?一応ざっと読んだよ」
『あんな踏み込んだ話題だったのに、何でやろうと思ったの?わたし、降谷の過去とか何一つ知らなかったのに』
質問の内容はあまりにも踏み入っていて、重くて、その人にとって大切なものだった。それを放課後話す程度のわたしと共有して良かったのだろうか。
わたしの過去なんて在り来たりなものだ。聞かれれば誰にでも言えてしまうくらい。だけど降谷は違う。現にわたしは、この数時間で降谷に抱く印象が変わってしまった。
「……これが、“恋に落ちる実験”だからだよ」
『え?』
「結果が知りたかったんだ」
降谷は何かを噛みしめるように目を閉じる。髪と同じ色をした長い睫毛が微かに揺れた。
どういう意味だろう。行間を読むことが苦手なわたしは、文字通り受け止めてしまう。
『……満足できた?』
できるだけ降谷から目を逸らさないようにしながら聞く。わたしの言葉に応じるように開かれた瞳は、やっぱり揺れているように感じた。
「……うん。どんな結果でも、僕は今日のことをずっと忘れないと思う。とても意味のある実験だった」
『わたしも当分は忘れなさそう。放課後ずっと質問し合ってたとか、たぶん他の誰も経験したことないよ』
「いつか忘れてしまうのか?」
『うーん、どうだろう。物覚え悪いから』
「そうか」
呟いた降谷は少し悲しそうだった。何故かは分からないけど、降谷に触れたくなった。
降谷は思っていたよりも、遥かに儚くて朧げな存在らしい。心臓に毛が生えているみたいにどんなことでも平然とやってのけるくせして、本当の弱い気持ちに何重にも鍵をかけて、それでやっと“降谷零”を成り立たせている。
この実験だけで辛そうな降谷を何度も見たのだ。ひとりになったら、彼はその気持ちに押し潰されてしまわないだろうか。
『嫌でも忘れないような思い出になればいいんだけどね』
「ん?」
『こっちの話』
恋人としてじゃなくていい。
ひとりの友人として、わたしは降谷をずっと支えてあげたい。
『たまに思い出してよ、貴重な高校生活の1日を意味もない実験に費やしたこと。降谷が思い出してくれれば、わたしも忘れない気がする』
「……あぁ、そうだな」
降谷は少し嬉しそうに目を細め、優しく微笑んだ。
939人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ことぅーげ(プロフ) - 完結おめでとうございます!高校生の降谷さんかっこよかったです感動しました! (2018年10月31日 15時) (レス) id: b537020977 (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - こんばんは!完結、お疲れ様でした。さらっと読み返してきました(笑)文字数が足らないので簡潔に、2度目の感想を失礼致します。降谷の感情に確信の持てなかった1度目と、確信を持ってからの2度目。見え方が全然違って読めました。拗らせが成就してくれて嬉しかったです。 (2018年10月27日 23時) (レス) id: 3e157837c2 (このIDを非表示/違反報告)
ユラン@ゆず*(プロフ) - 有紀さん» ミスなんて誰にでもありますから気にしなくて大丈夫ですよ笑。続編も楽しみに待機しておきます!!お気に入り作者登録しましたので、全力待機予定です!(`・ω・´)フンスッ! (2018年10月27日 12時) (レス) id: 2fe76e263c (このIDを非表示/違反報告)
有紀(プロフ) - ユラン@ゆず*さん» あ!かっこよく終わらせたかったのに!!!すみません、ご指摘ありがとうございました!!恥ずかしい(;_;) (2018年10月26日 7時) (レス) id: a38a24a1c3 (このIDを非表示/違反報告)
ユラン@ゆず*(プロフ) - 初コメ失礼致します。無事に完結おめでとうございます!文章量も丁度よく私にはとても読みやすかったです。毎回良いところで区切られるので先を読みたい欲が失くならずに完結までお供出来嬉しく思います。...コメント返信と最後の挨拶が2回繰り返されていますよ(小声)。 (2018年10月26日 7時) (レス) id: 2fe76e263c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:有紀 | 作成日時:2018年6月28日 13時