「恋に落ちる実験をしよう」

実験31 ページ31

『さっき好きかもしれない人がいるって言ったでしよ？』

「うん」

『でも、その人には好きな人がいるみたいなの』

「え」

『わたしは、どうすればいいと思う？』


我ながらなんて酷いことをしているんだろう。

好きな人まさに本人の降谷の口から、わたしの好意を隠した上でうまいこと突き放して貰おうと思っている。


「……諦めた方が、いいんじゃないかな」

『だよね』


そう言ってくれる気がしていた。降谷は効率の良さを求めているし、たぶん当たって砕けるなんて無駄に体力を使うことは提案しないだろうな、って。

本人に言われてしまえば、それはスッと受け入れられた。わたしは誰にも言わず、さっき芽生えた感情を諦める。きっと誰も傷つけない良い方法だ。


「他にも、渡辺のことを好きになってくれる人とか、既に好きな人とかたくさんいるだろうし、そっちに目を向けてみてもいいと思う」

『いるわけないでしょ』

「いるよ」

『は？』

「いる。すぐ近くにいる」


弾かれたように顔を上げると、やけに真剣な顔をした降谷に見つめられていた。目が逸らせない。

自覚するのは、なんて怖いことなんだろう。たった今振られたも同然なのに、降谷の鋭い眼光が眩しくて仕方ない。泣いてしまいそうだ。


「あとは、この問題を抱える渡辺の感情だっけ？……苦しい一択だろ。僕だって苦しい、許されるなら逃げ出したいくらいだ」

『……もし降谷がわたしと同じ状況だったら逃げないの？』

「僕はずるいからね」


降谷はそう言って、また少し自嘲的に笑った。わたしには降谷の言っていることが半分以上理解できなかった。

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