「恋に落ちる実験をしよう」

実験21 ページ21

『24問目、母親との関係をどう感じていますか？

うーん、まあお父さんよりはよく会うからどっちかと言えばお母さんとの方が仲良いとは思うけどそれくらいかな』

「可もなく不可もなく、かな。別段なにかあったりはしない」



あっさりと24問目は終わった。これで三分の二。長かった実験も、終わりが近づいてきた。





「そのまま続けるぞ？25問目、「私たちは」で始まる文章で、今の状況を3回描写しろ」

『指定なしなら交互じゃなくていいのかな……でもそしたらわたし不利だから交互にしない？』

「不利ってなんだ、別に勝負じゃないだろ。まあ、僕はどっちでもいい」

『被りなしって難しいんだよ！？』


一回詰まるとなおさら相手が言ったことばかり思い浮かべてしまうし、それはとても困る。

てか、それは条件を満たさないって却下されると思ってたわ。まあ採用してくれるならそれに越したことはないけれど。


「私たちは「恋に落ちる実験」をしている」

『うわ、めちゃくちゃ無難なやつ取りやがった。私たちは高校生だ』

「お前も大概だろ。私たちは実験の結果をとても気にしている」

『……私たちは、少なくともこの実験で仲良くはなれたと思っている』

「私たちは教室で向かい合っている」

『私たちは、……実験が、』

「渡辺？」



わたしは、今なんて言おうとした？


あぁもう、ダメだ。わたしにはこの実験の結果が見えてしまった。



さっき言いかけた言葉と同じじゃないか。






もし、片方だけに恋愛感情が芽生えてしまったら。


私たちじゃなくて、わたしは、“実験が成功すること”を望んでいる。







『私たちは実験をはやく終わらせたい』







降谷には、去年から想っている人がいる。そして、この実験は絶対に失敗すると最初から踏んでいる。

降谷の気持ちは揺るがないだろう。だって、わたしが彼に与えた言葉はいくらでも予想ができるものだっただろうから。



でも、わたしは、この実験をしながら降谷の過去や、弱さや、知らないことばかり知ってしまった。

降谷のことをもっと知りたいと思ってしまった。




こんなの、惚れているとしか言えないじゃないか。





『あと、三分の一』

「さすがに拘束しすぎたか？まああと少しだ、付き合ってくれ」

『言われなくてもそのつもり。ここまでやっといて投げ出すのは時間の無駄だし』


とにかく、今は真剣に質問に答えよう。

わたしにできるのはそれだけだ。

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