らくだい魔女短編集 〜リクエスト企画を実行します〜

私(ケイ)が書きたかったシーン　・チトセside・『アネモネ』 ページ8

チトセバージョン


　好き、だった。




　だから俺は、彼女に告白した。





　彼女は鋭く、俺を抉った。





　『もう近づかないで。』






　何も返さず、俺はその場を去った。









　後から気付いた。




　君の言葉は、俺を傷つける為に言ったんじゃないってこと。









　君は、先を見据えていたんだ。








　俺たちは王座に立たないといけない者。








　その使命を果たさないといけない者。









　『王座』。


　その言葉がいつも自分を苦しめた。






　運命は残酷だ。


　どうして俺らにこんな思いをさせるんだろう。


　それなら、君と出会いたくなかった。


　知らない者同士でいたかった。


　目を合わせてしまったら、声を出してしまったらきっと。









　また、恋をしてしまう。









　これ以上惨めな思いにさせないで。





　俺はもう、彼女を思い出したくない。








　全て終わったことだ。









　「…今日は…銀の国は戴冠式なんだっけ。」


　「…苦しいですか。チトセ様。」


　セイラに聞かれて、少し眉が反応する。


　ここで動揺してはいけない。


　「全然。」


　セイラに笑って返すと、そっと目線を落として小さく「そうですか」と呟く。



　…戴冠式。


　俺は明日、迎える。


　この国を治めて、仕事をこなして、皆から認められる存在に――――――――――









　『会いたい。』









　ふと頭に走った言葉に思わず立ち上がる。








　なぁ、お前なのか？



　今、会いたいって…そう思ったのはお前なのか？




　心が、揺れた。









　君の傍にいるのは俺じゃない違う人かもしれない。


　でも、それを俺自身耐えられるだろうか。


　眩しい笑顔が、楽しそうな声が。





　全部、違う人のものになるなんて。









　―――――俺には耐えられない。









　「…セイラ、裏口に連れてってくれ。」


　「何をお考えですか？」


　「…すぐ、戻ってくる。」



　セイラが一瞬顔を歪めて仕方ありませんね、とぼやく。


　「早く、行ってあげて下さい。」









　彼女に会いたい。


　話したい。


　お前に分かるか？

　『会いたい』の一言でこんなに気持ちが揺れ動く。

　まだ、俺はお前を待ってる。









　白のアネモネの花言葉は『期待』。

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