DOSON (ページ20)

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「日本人の女の子が土曜公開オーディションに合格したんだって」

土曜公開オーディション

それは、この会社で合格が1番難しいとされているオーディション

ましてや日本人の女の子が合格するなんて話は聞いたことがなくて、この噂は当時唯一の日本人練習生だった俺の耳にもすぐ届いた

　

初めてAが練習に合流した日、まずあまりにも整った容姿に驚いた

それから、ダンスのセンスの良さにも

それでいて、Aはスクールにも通ったことがなく趣味程度で独学で練習していたと言うから更に驚いた

翌日のボーカルレッスンでの透明感のある歌声にもまた驚いた

テクニックは荒削りだったものの、思わず聞き入ってしまう声質の良さと伸びが魅力的だと思った

この子は才能があるんだと直感で感じた

　

yt「新しく入った子やんな、日本人って聞いたんやけど、俺もそうやねん」

『…！』

練習室の隅っこで水を飲むAに関西弁で話し掛けると、ほっと安心したような嬉しそうな顔をしたあの日の事は昨日のことのように覚えている

それからお互いに大阪出身ということもあって打ち解けるのには時間がかからなかった

一緒に韓国語の勉強をしたり、練習をしたり、

日本人にそう優しくは無い環境も2人で乗り越えてきた

『私他の女の子と練習させてもらえないのなんでなんやろ』

　

入社してほとんどすぐから合同レッスン以外に、大抵男子のレッスンに加わるように指示されて、ボーイズの曲の練習を一緒にしていたA

そのせいで一部の女子練習生からの反感を買っていたことにAは気づいていた

　

休憩中に事務所の廊下で俺にだけそう呟いたAの゙瞳は不安で揺れていて、

ただ、「俺らと一緒やから大丈夫」っていう言葉しかかけられなかった

ルーキーズとして公開されてからは、余計その不安が強くなったみたいで、浮かない顔をすることも増えた

同時に自主練の量も増えていって、寝ずに会社に残り続けようとするので俺が止めていたほどだった

俺にできたことは、Aと不安を一緒に受け止めること、一緒に練習すること、話を聞いてあげることだけ

ずっと一緒に行動していたし、Aの頼れる相手でいたかった

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