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岩本side
楽屋に入ってすぐ、ふっかや佐久間、康二のところに行かないで、俺の隣に来た時点で少し違和感を抱いていた。でもそんな気分じゃない日もあるかって別に気にしてなかったんだけど。
収録終わり、ソファに沈んでぼんやりしてる姿が気になって。そういえば終わってすぐもめちゃくちゃ息切らしてたなって思い出して、心配になって声を掛けたの。
ポーカーフェイスではあるんだけど、少しだけ火照った顔を見て熱があるんじゃないかと思って。聞いてみたら寒いって言うから、ほぼ確定。送るから、と言い残して、俺は自動販売機に向かった。
寒いなら温かいものがいいかなと温かいお茶を買って楽屋に戻る。この後仕事のメンバーもいるからか、戻った頃にはもう楽屋にはだてさんしかいなかった。
「お待たせ、行こっか。歩けそう?」
「大丈夫」
言葉通り、だてさんの足取りはしっかりしていた。
助手席じゃ落ち着かないだろうから後部座席に乗って貰う。暖房の温度をいつもよりも少し高めに設定した。あとあんまり使うことはないけど常備しているブランケットも出しておいて、だてさんのすぐ隣に置いておく。
「必要そうなら使ってよ」
「ありがとう」
「気分悪くなったらすぐ言って。あと、楽な体勢で大丈夫だから」
できるだけ揺らさないよう、安全運転を心がけたつもり。車内はすごく静かで、暖房が稼働している音と、時々だてさんが軽く咳をする声が聞こえるくらい。何も言わなかったけど、やっぱり風邪気味なのかな。
ミラー越しに後ろを見ると、窓に頭を預けて目を閉じるだてさんの姿があった。帰りに声掛けといてよかったかも。
だてさんはあんまり無防備な姿を見せないから、家に着いたときは普通に目を開けて起きていて。
「着いたけど気分悪くない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。ブランケット借りました。わざわざごめんね」
「謝ることないって」
「ありがとう、助かった」
「あ、まってだてさん!」
じゃ、と車を降りただてさんをとっさに呼び止める。
「何かあったらいつでも連絡して」
最後にこれだけは言いたくて。
ありがとう、って微笑んだ館さんの顔色はお世辞にも良いとは言えない。俺は、次会うときまでに良くなっていることを願うだけ。
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作者名:めーる | 作成日時:2022年2月1日 22時