47 ページ17
・
「はぁぁ…」
「お前、何回ため息ついてんの」
カウンターに戻ってきたすばるさんに、軽く頭を小突かれる。
3日ぶりの”ほくほく”は相変わらず女の子だらけで、
黄色い歓声の向こうではマルちゃんがステージでベースを弾いてる。
「ため息ついたら幸せが逃げるで」
いつもなら何か言い返すのに、ぼーっとする頭じゃ何も考えられなくて。
黙って下を向いてたら、”生きてる?”って聞かれる始末。
「俺でえぇなら、悩み聞くで?」
「…どうしたんですか。珍しい」
「どうせマルのことやろ?
あいつ、人の気も知らんとフラフラする奴やから、
考えるだけ損やで」
接客で忙しいはずなのに、スツールに座っていつもみたいに笑ってる。
”呑め”なんて出されたグラスを傾けたら、
口の中で弾ける泡が、固まった思考に刺激を与えて。
何だか、全部どうでもよくなった。
「…嫌になったんです」
「嫌って、マルが?ケンカでもしたん?」
「そうじゃないんですけど。何て言うか、」
マルちゃんは、誰でもいいのかなって。
声をかけてくれる子には丁寧に接するし、
お客さんって分かってるけど過度なボディタッチだってあるわけで。
私がいるのに、嫌な顔一つしないで答えるマルちゃんが、分からない。
帰ってきそうもない彼女さんを3年も待ってるなんて、もっと分からない。
マルちゃんは自由に生きてるのに、私はマルちゃんのせいで、いろんなことに縛られてる。
「…正直、しんどいです」
「考えるだけ損やって、さっき言うたやろ」
「…そうですけど」
「いっそ俺にしとくか?」
「冗談言わないでください」
なんて、口では強がってみたけど。
少しでも楽になれるなら、こんな辛い思いをしなくて済むのなら。
他の誰かを好きになってしまった方がいいのかもしれない。
大倉でもない、章大でもない、恋なんかあり得ないような人に溺れてしまいたい。
「冗談ちゃうけど?」
「…ぇ?」
「せやから。冗談ちゃうで、さっきの」
カウンターの下で、右手にそっと重なった左手が熱くて。
笑ってごまかそうとしたのに、隣のすばるさんは見たことないくらい真剣な目で私を見てる。
「現実見ろや、A。あいつはお前のもんとちゃう」
そう簡単には見つからない、なんて安心しきっていたのに。
目の前に転がっていたのは、求めてしまったあり得ない恋。
+
130人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千香(プロフ) - ゆんゆさん» いつもコメントありがとうございます。<(_ _)> 構ってもらえるだけでも幸せなのに、振り向いてもらえない現実は痛いなぁと青色さんに限らず思ってます。(笑)三角関係が更に広がっていく予定なので、のんびり更新ですがこれからもよろしくお願いします! (2018年9月21日 22時) (レス) id: 6d1e446494 (このIDを非表示/違反報告)
千香(プロフ) - ◎◎さん» いつもコメントありがとうございます。<(_ _)> のんびり更新ですが、これからも楽しみにしていてくださると嬉しいです! (2018年9月21日 22時) (レス) id: 6d1e446494 (このIDを非表示/違反報告)
ゆんゆ(プロフ) - みんなが幸せになってほしい…もちろん難しいんですよ。誰かを好きになるなる事は、知らず知らずに誰かを傷つけてるって。でもね、どうかみんなの気持ちが救われますように…って、全然感想じゃない!ごめんなさい笑 (2018年9月21日 0時) (レス) id: e91edee03b (このIDを非表示/違反報告)
◎◎(プロフ) - ドキドキが止まりません!これからも楽しみにしています! (2018年7月17日 0時) (レス) id: 8846a7498c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:千香 | 作成日時:2018年6月16日 23時