第23夜 ページ23
.
嫌だ、嫌だ。
脳内で警報が鳴り響く。
逃げなきゃなのに、掴まれた腕は私を離してくれそうにない。
ぶんぶんと振り回してもびくともせず、むしろ握る力は強まるばかり。
｢離してください、やだ、はなして、｣
私の口から漏れた言葉はひどく弱々しく、上ずっている。
そんな言葉を聞いてくれるはずもなく袖がまくられ、もう片方の手で坂田さんは血管の位置を確認している。
｢やだ、や、坂田さん、やめて｣
｢暴れたらあかんって、暴れたらもっと痛くなるで？｣
坂田さんの頭の中にどうやら｢やめる｣という選択肢はないらしい。
痛いのはいやだ、でもこうしていないと自分が自分じゃなくなってしまいそうで、それがどうしても怖い。
不毛な抵抗を続けていると、扉の外から声が聞こえる。
｢坂田、お前何やってんの、ルールで客人に手を出すなって言っただろ！？｣
それはうらたぬきさんの声で、聞いたことのないくらい怒っている。
扉越しでもよく聞こえる辺り、相当声が大きいのだろう。
｢ルールには逆らわんほうが懸命やと思いますけどね〜、痛い目に合わんうちにさっさとお客さん解放したりや｣
センラさんもいるのか、はっきりとした独特な声が聞こえてくる。
さすがに仲間の声を無視するような人ではないのか、ぴたりとその動きを止めた。
しかし、逃がしてくれるわけではないようで、握られた腕はそのまま。
｢_____手なんて出してへんよ｣
｢嘘つけ薬盛って眠らせて人気のないところ連れてって今にもお前のあのおぞましい実験に付き合わせようとすることのどこが手を出してないんだよ！｣
ノンブレスで話すうらたぬきさんの圧に自分が言われてるわけでもないのに圧されてしまう。
坂田さんは面倒くさそうに大きなため息を吐き、髪の毛をかきあげる。
どうしようか、と考えているところなのだろうか。
｢坂田〜、俺らは忠告したからな？ルール守らんかったのはそっちやからな？｣
センラさんの言葉が聞こえた瞬間、天井から銃声のようなものが聞こえてくる。
反射的にそちらを見上げた瞬間、天井が勢いよく崩れ落ちてきた。
全体ではなく一部だし、私の頭上ではなく坂田さんの頭上。
腕は解放され、坂田さんは落ちてくる天井から逃げるように距離を取る。
｢ええ度胸してるやん、坂田｣
穴が空いた天井から、すっかり見慣れた人影が降りてくる。
私の前に立つ志麻は、まるでヒーローのようだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1107人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クロナ - 涙目になりながら読ませて頂きました。とても面白い話でした！ (2019年1月23日 0時) (
レス) id: 95383b2889 (このIDを非表示/違反報告)
心愛 - とてもよっかたです！夢主ちゃんと四人が再会するお話とかその後話が欲しいです！ (2018年11月27日 21時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
史緒(プロフ) - ゆづきさん» コメントありがとうございます、まだまだ拙い文ですがそう言っていただけて感無量です…！閲覧ありがとうございました！ (2018年10月31日 7時) (レス) id: 5df9928a5a (このIDを非表示/違反報告)
史緒(プロフ) - つぼみさん» コメントありがとうございます、少しでも作品の雰囲気を楽しんでいただけでとても嬉しいです！期待に応えられるよう頑張ります！！ (2018年10月31日 7時) (レス) id: 5df9928a5a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき - 感動した。ただその一言です！愛が感じられるとても素敵な作品でした！ (2018年10月30日 18時) (レス) id: 5ea47c424e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：史緒 | 作成日時：2018年10月3日 23時
