9話 ページ10
立ち止まってしまった僕を、通りを歩く人たちは、どんどん追い抜いていく。
みんなこの路地に気付いてない。
僕だって、１つ１つビルを丁寧に見ていなかったら、気付かなかっただろう。
黒い背広の人が、ゆうべの大型車にもたれて、僕を見ている。
なんとなく…なんとなくだけど、男の人が微笑んだような気がした。
まるで、「よく見つけましたね」っていうように。
それで決心がついた。
僕は、路地に入ることにした。
せまい…
おまけに、畳んだ段ボールやビールの空き瓶、アルミサッシの窓枠なんかが乱雑に置かれていて、なかなか進めない。
手に持った学生カバンが、いろんなものに引っかかる。
黒い学生服が、埃で白くなっていく。
両わきを高いビルの壁に挟まれて、路地の中は暗い。
気を付けないと、障害物に足を取られてしまう。
苦労して後ろを振り返ったら、入ってきた通りが小さく細く見えた。
もう10メートルくらい進んでる。でも、まだまだ先は暗くて見えない。
僕は別に閉所恐怖症じゃないけど、だんだん心細くなってきた。
もしここで身動きが取れなくなったら、絶対に発見されずそのまま白骨死体になってしまうだろうな…
怖い考えになってしまう。学生服の下を冷たい汗が流れる。
路地はますます暗くなり、僕は手探り状態で進む。
そして、いよいよ泣き出したくなったとき、前に伸ばした手が何かに当たった。
「…なに？」
手で探ってみると、どうやらドアらしい。ドアノブがついているので回してみるけど、鍵がかかっているようだ。開かない。……鍵？
そうか、創也が渡してくれた鍵はこのドアの鍵だったんだ！
僕は苦労して、ポケットに入れておいた鍵を出した。そしてドアノブの中央に空いた鍵穴にさす。
かちゃ。
鍵の開く音。その音は、まるで天使のファンファーレのように聞こえた。
僕はドアを押した。
途端に中から光がこぼれてきた。
薄暗いところから電気のついた部屋の中に入り、まぶしくてしばらくは目が開けられなかった。
そこは10メートル四方くらいのがらんとした部屋。
すみに2階に上がる階段がついていて、床にはセメントの粉や建設資材の破片、鉄骨の切れ端などが散らばっている。窓は一箇所あるんだけど、段ボールと板で塞がれていた。
天井につけられた蛍光灯が寒々しい。
創也「待ちくたびれたよ、内藤くん」
突然、創也の声がした。
続く (更新停止中)
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すた(プロフ) - 円陣はずれさん» ありがとうございます！ (7月27日 22時) (
レス) id: 547c4df5f1 (このIDを非表示/違反報告)
円陣はずれ - 都会トムの話って少ないですよね...悲しいです。続き楽しみにしてますして！ (2023年2月25日 22時) (レス) id: dd75b894fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：すた x他1人 | 作成日時：2022年6月18日 23時
