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深夜。
土砂降りの夜道には好都合なくらい人っ子一人いない。
傘もささずに外に出てきてしまった。
雨脚は強さを増すばかりで、衣服が雨に濡れて肌に纏わり付いていて気分が悪い。
私は妙に冷静な頭でタクシーを呼んだ。
数分後、チカチカと光るハザードランプのオレンジがぼんやりとした視界に映り込み、開けられた後部座席に静かに乗り込んだ。
『どちらまで?』
「ここの住所までお願いします」
普段怒鳴ることなんてなかった彼から「出てけ」と言われたことに驚き反射で出てきてしまったけれど、同じ家に住んでいたのだから家が無くなってしまったも同然で。
帰る場所を失った私は、一つだけ頼りに出来る場所を頭に浮かべ、タクシー運転手に伝えた。
『雨、酷いですね』
タクシーの運転手がずぶ濡れになった私を気まずそうに見ながらそんなことを言う。
私はただ「そうですね」とだけ呟いて、車窓に打ち付ける雨粒を見ながら喪失感を感じていた。
そしてそのままタクシーに揺られること30分。
向かったのは同じ都内にある実家。
私にはここ以外、頼れるものがなかった。
久しぶりに使う実家の合鍵。
鍵を開けるとリビングから母が不審そうな顔をして玄関を覗き込んでいて。
「え、A?」
久しぶりに帰ってきた娘を見た母は、驚いた表情で駆け寄った。
「やだ!こんなにびしょ濡れで!」
「....傘なくて」
「コンビニでもなんでも買えばよかったでしょ!もう風邪引いちゃう!お風呂沸いてるから入ってきなさい!」
「どうして傘もささずに実家に帰ってきたのか」を聞くこともなく、そのまま私を風呂場に押し込む。
無条件で与えられた優しさに触れた私は、湯船に張られた温かい湯の中で声を押し殺して泣いた。
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cleam(プロフ) - 花恋さん» 花恋様、お返事が大変遅くなってしまい申し訳ありません……コメントをいただいていたのに見落としてしまっておりました🙇🏻♀️とても素敵なコメントをいただけて嬉しく思います。ありがとうございました🙇🏻♀️ (12月14日 20時) (レス) id: e2ba919ba9 (このIDを非表示/違反報告)
花恋 - cleam様、完結おめでとうございます...!今まで沢山の素敵なお話をありがとうございました!毎回楽しく読ませて頂いてましたが、特に今回の作品はまるで一本の映画を見ているようでめちゃくちゃ感動しました。本当にお疲れ様でしたありがとうございました...!! (2022年3月24日 3時) (レス) @page50 id: b45d38f13c (このIDを非表示/違反報告)
cleam(プロフ) - ぺふさん» ありがとうございます( ; ; )うわぁ....1番好きだなんて嬉しすぎて何と表現したら良いか、(涙)最後まで楽しんでもらえて本当に良かったです。そしてお心遣いもありがとうございます。全力で頑張ってきます! (2022年3月21日 7時) (レス) id: c295088e12 (このIDを非表示/違反報告)
cleam(プロフ) - ayaさん» ありがとうございます😭たくさんたくさんお読みいただけて光栄です....!今は少しロス(?)状態ではありますがこれから来る新生活、頑張りたいと思います!そうですね^^これからも活躍する9人をいっぱい応援していきましょう!ありがとうございました! (2022年3月21日 7時) (レス) id: c295088e12 (このIDを非表示/違反報告)
cleam(プロフ) - asami13さん» ありがとうございます( ; ; )わぁ、良かった....( ; ; )またいつか書ける日が来ることを夢見て実生活の方を全力で頑張りたいと思います!ありがとうございました! (2022年3月21日 7時) (レス) id: c295088e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:cleam | 作成日時:2022年3月3日 0時