ふぇいくかっぷる。《Ryohei.A》 (ページ9)

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そんなこんなでなんとか入社初日を終えた。

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すっごく緊張したけど、親切な人ばかりだし本当によかった。…とにかくこれから頑張ろう。

そんな決心を抱きながら、電車へと乗り込もうとする午後23時頃。

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そこで、自分の犯した重大なミスに気が付いた。

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あ「ヤッバ…！財布忘れた！！」

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バッグを探ってみても、ない。やっぱりない。

唯一思い当たる場所と言えば…？

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あ「デスクの上、だ…」

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夜遅いし明日でいいか。

そう思ったけど自分の性格上それも無理だった。

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社内は誰一人として気配がなく、真っ暗。

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あ「あった。よかった…」

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携帯のライトで室内を灯しながら自分の席へと辿る。

案の定財布はそこにあった。…急いでバッグへとしまい込む。

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よし、帰ろう…そう思って、出口へと足を進めようとした時だった。

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あ「ん…？」

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不自然に奥の会議室の明かりだけが、ついていた。

誰か消し忘れたのかなぁ。はたまた…？

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気になって、恐る恐る足を進める。

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そうして目の前のドアを少し開ける…

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あ「…！」

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思わず言葉が、出なくなる。

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嘘、でしょ…？

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だって、そこには…

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他の部署の見慣れない女の子と

唇を重ね合う阿部さんが居た、から。

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このまま気付かれずに帰ればよかったんだ。

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もっと、最悪なのが…

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ガシャン！

後ずさった弾みで近くにあった物が落ち

その音にふたつの影は動きを止めてこちらを見た。

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やっぱり、阿部さんだ…

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彼の白シャツは少しはだけて

私を見る阿部さんのその目は全然優しくなんかなく妖美でまるで狼のような瞳をしていた。

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あ「、っ」

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走ってその場を後にする。

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見てはいけないものを見てしまった。

また『幻』なんでしょ？そう、だよね…？

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この時の私はまだ知らなかった。

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私を見てふっ、と阿部さんが

悪戯に微笑んでいたということを…

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