ふぇいくかっぷる。《Ryohei.A》 (ページ15)

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あ「…だから何なんですか…」

本当は何が言いたいのか分かってる。

だけど、あえて分からないフリをした。

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阿「ほんと察しが悪い…」

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阿部さんがはぁとため息をついて、右の口角を上げる。

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阿「だから、つまり…」

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阿「俺と一ヶ月付き合ってくれるなら…辞めずに済むってことだよ」

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やはり私の憶測と合致した。

阿部さんが下唇を噛みながら私を見る。

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どういうことかと、つまり…

私は阿部さんと一ヶ月付き合わなければこの会社を辞めさせられる。

阿部さんのこの会社での信頼を考えれば、不満なんぞ打ち明けられたら一発に首を切られるに決まってる。

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そして、前の会社だって…

彼の言う通り戻るに戻れない。

もう私の居場所はここしか、ないんだ…

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阿「さっ、どうする…？」

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悔しい。

私の唇まで奪われた上に、愛のない恋人同士も演じなければいけなくなる、だなんて…

どうして阿部さんはここまで私に、こだわるのか。やっぱり遊び？いや、そうだろう。

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あ「好きって感情がなくても…？」

阿「うん。なんならその方が気が楽」

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入社して数日でここを去ることになるなんてまっぴらごめん。

一ヶ月間。たったの一ヶ月我慢すればいいんでしょ？

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あ「…分かりました」

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その阿部さんの提案、仕方ないけど飲んであげる。望むところ…だ。

目の前の阿部さんが満足そうに微笑む。

きっと彼のシナリオ通り。…そう、でしょ？

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阿「じゃあいくつかルールを決めよう」

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あ「…ルール？」

阿「うん。お互い特別な感情は持たない。干渉しすぎない。バレたら、即別れる。恋人期間は一ヶ月」

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お互い特別な感情を持たない。

それはきっと『好き』という気持ちを持たないことを意味してる。

けど、こんなルールで阿部さんが私と付き合うメリットってなんだろう…

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あ「もし、もしも…特別な感情を持ってしまったら？」

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一応。これくらいは聞いておいてもいい…よね？

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阿「その時はそこで、俺達の関係はお終い」

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阿部さんの低くて、男らしい声が耳元に深く届いた。

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