第十二話 恐怖の匂い�� ページ37
彼女が一切話さない俺の様子を伺っているのはわかっていた。
でも、今彼女と会話すると、せっかく決めた彼女の覚悟を踏みにじってしまうような気がした。
彼女を信じるべきだし、彼女のポケモンを信じるべきだ。
そうわかってはいるのだけれど、もし、また、失うことになってしまったらどうしよう。
…今は上手く笑顔がつくれない。
そんな俺の態度が彼女を困らせてしまっているのに気づいたときには、もう辺りが暗くなっていて、鬼の情報があった場所に到着していた。
鬼と遭遇すると案の定、彼女は恐怖の匂いを強くさせていた。
いや、匂いだけじゃない。
真っ青な顔、震える体、見開く目。
すべてが恐怖を表していた。
すぐに倒せればよかったが、運悪くその鬼は苦戦するほど強かった。
木に体をたたきつけられ、かなり痛い。
骨が折れている気がする。
それでも、俺は休んでいられなかった。
禰豆子に彼女を頼んだ時、俺がもっと強ければと悔しかった。
強くなる、そう何度も心に決めたはずなのに、まだまだ足りない。
まだまだ、俺は弱い。
歯を強く噛みしめた時、どんな音よりも鮮明に、彼女の声が聞こえた。
「お願いリザードン！ほのうのパンチ！」
結果として、俺は彼女に助けられた。
昼間よりも強い覚悟の匂いをさせた彼女に。
鬼が灰になって消えていく。
完全に消えた時、ドサッと音がした。
随分と頑張ったのだろう。
体の力が抜けて、彼女はその場に座りこんでいた。
震える彼女の体を、禰豆子が抱きしめる。
こんな思いを、これからもさせなければならないのか。
どうして彼女が、恐怖を抑えながらも戦わなければならないのか。
俺がもっと強ければ、彼女がこんなに頑張る必要はなかったのではないか。
俺には、彼女を守れないのではないだろうか。
黒い思いが体の中をめぐり、カタカタと小刻みに震える自分の体。
彼女と目が合うが、多分今俺はすごく嫌な顔をしているだろう。
そんな顔を見せないように、体を翻した。
「…とにかく、藤の家紋の家を探そう。」
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作者名：さりー | 作成日時：2020年7月10日 21時
