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阿 「昨日発売された文庫本。俺、まだ読んでないんだけどね、すっごく面白そうなんだ。」
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阿 「まだ読み途中のものあるって言うのに。先に読んでみちゃおっかなーなんて思ってて、」
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『Aちゃん…？』
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あ 「…へっ、」
阿 「どうかした？さっきからずっと上の空だよ？」
あ 「…えっ、」
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阿部先輩の言葉に思わずはっ、となる。
そういえば私、さっきから阿部先輩の話
ただ頷いてるだけで、正直きちんと聞いてなかった。
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阿 「もしかして俺の話、つまらなかったかな…？」
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あ 「いえ、そんなことないです、！」
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眉を下げて、寂しそうな表情をした阿部先輩にぶんふんと顔を横に振った。
駄目じゃん、私…
大好きな先輩にこんな顔させたら。
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阿 「テスト近いし疲れてるのかもね、今日はお家帰ったらゆっくり休んだ方がいいよ？」
あ 「そうかも、しれないです。ごめんなさい…」
阿 「ううん。謝らないで。じゃあここで。また来週ね？」
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私の頭をポンポンと撫でると、阿部先輩は
私とは逆のY字路の方角へと歩いて行った。
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あ 「はぁ…」
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いつもなら心から楽しいって思える阿部先輩との時間も今日はあまりそうは思えなくて…
その原因がなんなのか必死で探ってみるけど、
なかなか見当たらないんだ。
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だ、けど。
いや、そんなはずない、と思いつつやっぱり頭の片隅にずっとこびりついてる出来事がひとつ。
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『…もしもし？紗南。どした…？うんうん。わぁーった。今行くわ、』
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『Aちゃんごめん。俺、そろそろ出るわ、ちょっと女の子に呼ばれちゃってさ。』
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どうしてあの時の先輩は一度も私と目を合わせてくれなかったのだろう。
心なしか哀しげな表情をしていたんだろ。
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そればかりが頭にこびりついては、消えなかった。
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作者名：くろーばー。
| 作成日時：2021年8月16日 10時
