09:トキメキとドキドキ ページ9
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「櫻井今日直帰だったんじゃなかったの？」
ずっと気になっていた櫻井が会社に戻って来た理由を訊く。
私の奢りだからというわけで、私の好きなものでいいと言ってくれた櫻井と、結局会社から出て３分の距離にある蕎麦屋に出向いた。
蕎麦かよ、と笑った櫻井に「二人とも蕎麦好きだからいいじゃん」と言えば「安いしな」と頷いた。
「まあな、でも用あったし」
「用？」
「だからついで」
テーブルに運ばれてきた蕎麦に、「いただきます」と手を合わせて櫻井は口をつけた。
同時に運ばれてきたから私も同じように箸を握って蕎麦を口に運んだ。
“ついで”…その言葉は多分嘘。
櫻井の分かりにくい優しさに、無意識にときめいてしまった。
本当は用なんてなかったでしょ、とは突っ込まないでいる方が多分櫻井も嬉しいはず。
「ありがとう」
「は？なに？」
「ただ言いたかっただけ」
だから感謝の言葉だけを伝えれば「変なの」と言って、ははって少し嬉しそうな顔して笑う櫻井に、この対応が正解だったと分かる。
これも櫻井の面倒な性格を熟知しているからこそだろう。
「…朝、ごめん」
不意にボソッと呟いた櫻井に、ん？と視線を上げて櫻井の顔を見る。
「大野と二人でいるとこ見たらイラついた」
私とは目を合わせずにそう言ったあと、櫻井はズズッと蕎麦を啜った。
なんなのこの男は…引き出しが多い。
これまで意識せずにいられたことが奇跡なのかもしれない。
そう思うほどドキドキしてしまった。
「ふーん(笑)」
「んだよ」
「嬉しかっただけ」
「は？嬉しい？」
「うん」
「俺はイラついてんだけど」
やっぱお前意味分かんねぇ、と言いながら櫻井はガシガシと後ろ髪を掻いた。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年2月25日 15時
