◆129:水の泡 ページ9
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「櫻井くんの素が、口が悪い男だなんて思わなかったなぁ」
イライラした気持ちを無理矢理静めさせていれば、ミナミ先輩がボソッと言葉を零した。
「幻滅したんですか？」
「ううん。まあ驚いたけどね。櫻井くんって好青年で爽やかな印象だったから」
「そんな俺に騙されたって思えば、俺なんかミナミ先輩にとって価値ないでしょ？」
本心を繕ったわけじゃないけど、ただ悪印象を残したままでいるのは後味が悪いだけ。
仕事上関りはないけど、同じ会社の先輩という立場にいる彼女に、不利益を残したままじゃ心地が悪い。
ただ自分のメリットのため。決してプライドの高い彼女の感情を配慮したわけじゃない。
「むしろその櫻井くんに価値感じたけど」
「え？」
「Aちゃんにはあんな顔するんだって、私の見たことない顔見せてたから」
これまた予想を大きく外した回答が返って来て、少しだけ動揺した。
その気持ちを悟られたくなかったけど、隠すのが遅かったのか、ミナミ先輩はクスリと小さく笑った。
控えめに笑うその顔は、さすが美人だなって思わされる。
本当に見た目だけは申し分ないんだなこの女は。
「だからもう諦めついたよ、あのときに。スッパリ全部ね」
「だったらやっぱり俺に幻滅したんすよね？」
「んー少し違うけど、ある意味そうかもね」
何故か俺は“幻滅した”の一言で、事を収めたかった。
意味合いは違うだろうけど、この際明確な意味なんか必要ない。
「けど、櫻井くんって無駄に優しいから嫌になったのはホント」
「どういう意味ですかソレ」
「あのとき私にあんなに強く当たって来たのも、今こうやって私を助けてくれたことも、中途半端に優しさが含まれてるから嫌になったの」
ああ、しまった。って思った。
言動の裏を知られちゃ全てに意味がなくなるだろって。
年上の女の狡さが仇になって返って来ちゃ、全てが水の泡だ。
やっぱりこの女はめんどくせぇ。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年9月27日 20時
