◆127:元上司で元カノ ページ7
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なんて余計なことを色々と思い出していた思考を排除し、その場から立ち去ろうとすれば、「あ！あのさ、櫻井くん」と呼び止められた。
背を向けた途端に声を掛けられ、反射的にその声に反応して振り返ってしまった。
「何ですか？」
意識しないで淡々と言葉を発すると冷たい印象を持たれることが多いが故に、営業マンとして身につけたのは自分を着飾る笑顔。
元々学生時代からそうだったけど、わざわざ自分に不利益になる面を相手に見せるのは頭が悪い。
それが社会人になってから、この営業の仕事をしてから、外面を完璧に見せることに長けた。
苦手だと思う相手にも、感情を隠して接することができる。
「智から聞いたんだけど、Aちゃんと喧嘩してるんだって？」
「…は？」
だけどそれがいつの間にか崩れていったのは、“愛”という名のつく感情に溺れたせいだ。
ミナミ先輩の口から思いもよらぬ言葉を投げ掛けられたのは全くの誤算。
…ったく大野、余計なことを話しやがって。
「ふふ、櫻井くんのホントの顔見えた」
可笑しそうにクスッと笑ったミナミ先輩に、はあ、と思わずため息を零す。
めんどくせぇ。何だよこの女。
「べつに先輩に関係ないですよね、俺らのこと」
「じゃあ何で私に話し掛けたの？」
話の焦点をズラされた。結局訊きたかったのは前者の質問ではなくこっち。
前者の質問はただ俺を引き留めるための手段に過ぎない。
「深い意味なんてないですよ。先輩が困ってたから助けてあげただけです」
「私のこと嫌いなのに？」
「嫌いとかそういう私情は関係ないですよ」
「やっぱ嫌いなんだ、私のこと」
「だからべつに嫌いじゃないですって」
あー、すげぇイライラする。こういう生産性のない会話が一番嫌い。
嫌われてるって分かってんならわざわざ当の本人に訊くな。
本音を噛み殺しているのは、この女が元上司で元カノだからという面倒臭い立場にいるからだ。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年9月27日 20時
