160:瞳の奥 ページ40
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「自分でも分からないんすよ。人の女を横取りなんてしたくないのに、気付いたらもうどうしようもないほど欲しくなっちゃってた…」
そう言って、ふっと息を吐いて笑う二宮くん。
だけど、その目の奥は笑っていないことはすぐに分かった。
「先輩のことが欲しくなった」
色のない、笑っていない目で、私を見て二宮くんはそう言った。
その視線に耐え切れなくて逸らせば、ハハっと笑い声が聞こえて来た。
「俺のせいで拗れてる二人を見てると、背徳感を煽られるんだけど、同時に奪いたくなる気持ちが強くなってくの」
「・・・」
「俺のせいで困ってる先輩を見ると、なんか嬉しくてさ…もっと俺のこと意識させて、俺で困って欲しいって思っちゃうの」
逸らした視線を再び二宮くんに合わせれば、二宮くんは私を見ていなかった。
代わりに横顔が見える。横顔が街灯の光に照らされ、影を作っている。
二宮くんは緩く口角を上げて、少し上の方を見据えていた。
「俺、何考えてんだろうね。頭可笑しいですよね。先輩が俺のことを好きになる可能性なんてゼロに近いのに」
上を向いていた視線が俯き、ハ、と息を吐いた音が響く。
チラッと一瞬だけ私の方に目を向け、二宮くんは口角を上げて少し笑った。
笑っているけど、やっぱり目の奥は笑っていない。
どこか儚げで、どこか消えてしまいそうな二宮くんを見ていられなくて、顔を俯かせてしまう。
「どう考えてもさ、櫻井さんに勝てないでしょ俺。無理だって分かってんだけど…先輩がずるいから。先輩は、ずるいよ…」
二宮くんにそんな顔をさせているのは、二宮くんの気持ちに今まで気付けなかった私のせいだ。
だけど、どうしたらいいのか、分からない。
二宮くんの気持ちを受け取れないのは確かで、だからって嫌いになることも出来ない。
「仕事ではちゃんとイイ子ちゃんでいます。先輩に迷惑は掛けたくないから。だから会社では今まで通り俺と接してください。お願いします」
言い返す言葉が見つからず、口を噤んだまま黙っていれば、二宮くんは、ペコリ、と少しだけ頭を下げたあと、スタスタとお店の方へと戻って行った。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年9月27日 20時
