134:やり手営業マン ページ14
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「Aちゃん、隣いい？」
不意に聞き慣れた声が後ろの方から聞えて来て、反射的に振り返ろうとすれば、一足先にその声の主はひょいっと顔を覗かせた。ふにゃあと笑った顔。
「あ、大野先輩」
「いい？隣？席空いてなくてさ」
右を向いて大野先輩と目を合わせ、「どうぞどうぞ」と言えば、「ふふ、ありがと」と言った大野先輩が私の右隣の椅子に腰掛けた。
テーブルに置いたトレーの上にはA定食の唐揚げ定食。
前に相葉くんと一緒に社食に来たときに食べたなってぼんやりと思い出す。
そういえば今日も相葉くんと同じご飯を食べてる。
「あ、大野さん！お疲れ様です！」
「相葉くんお疲れ〜」
相葉くんが手に持っていた箸を置き、ペコッと大野先輩に頭を下げれば、大野先輩はふにゃりと緩く微笑んで挨拶を返した。
「あれ、大野さん外回り終わったんすか？帰り早いっすね」
私から見て右斜め、大野先輩から見て目の前に座っている松本くんが、大野先輩に気付いてそう問い掛けたら
「あー、思ったより早く済んじゃった。お得意様だから」と答えて、「いただきまーす」と大野先輩は箸を握って唐揚げをパクッと口にした。
大野先輩はこう見えても、いやこういう言い方だと失礼だけれども、営業成績は一課の中でナンバーワンのやり手営業マン。
ふわふわしていて緩そうな雰囲気をしているのに、仕事はすごくデキる。
鈍感そうに見えて、とてつもなく鋭い。
大野先輩の掴めなさは、もはや天下一品級だ。
「ん？」
「え、」
「俺の顔に何かついてる？(笑)」
んふふ、と面白そうに笑うその声によって、いつの間にかじーっと大野先輩のことを見つめていたことに気付かされた。
大野先輩って、小悪魔だ。前から思ってたけど、ちょっと意地悪。
いいえ、と咄嗟に首をブルブル振って、何だか恥ずかしくなって目を逸らして急いで麻婆豆腐を口に運べば、フハッと少し笑われた。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年9月27日 20時
