121:綺麗な指先 ページ1
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「Aちゃんヤッホー」
結局櫻井とも拗れたまま、二宮くんに対しても曖昧な気持ちのまま数日が経った。
櫻井は相変わらず嫌悪感を纏っているし、二宮くんは何事もなかったかのように平然とした態度だし。
あれこれと考え過ぎて頭が痛い。
それに加えて仕事もミスばかりが目立ち、山積み。はあ、効率悪いなぁ私。
今日は確実に残業だ、と落ち込みながら気晴らしに喫煙所へと向かえば大野先輩の姿。
ふと腕時計を確認すれば、ぴったり14時半。
無意識のうちにこの時間を選んでしまったのは、過去の自分に身に着いたルーティン的行動からなのか。
狙ったつもりはないから、きっとそうだと決めつける。
お疲れ様です、と大野先輩に一言挨拶を交わし、一人苦笑が零れた。
ポケットからタバコを取り出して、それを口に咥える。
「…あ、」
それからライター…と思えば、見当たらない。
忘れ癖は直らないなぁ、なんて再び苦笑が零れたとき、「ライター忘れたの？」と問い掛けられ、パッと声のする方へと視線を向ければ
「はいどーぞ」と斜め向かいにいたはずの大野先輩がすぐ隣にいて、スッと私に百円ライターを差し出してくれた。
「あ、すみません」
「いいえ〜」
差し出してくれたライターを受け取り、素早く火をつけてそれを返す。
「翔ちゃんとまだ喧嘩中？」
「…え？」
「ふふ、翔ちゃん頭かてぇからなぁ」
眉間にシワを寄せ、フーと白い煙を斜め上に吐き出しながら、大野先輩は可笑しそうにそう言う。
白い棒を挟む指先は、相変わらず見惚れるほど綺麗。
余計なことを考えていた思考をすぐに払って、「あの、この前の飲み会のことなんですけど…」と気になっていたことを切り出してみた。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年9月27日 20時
