36:電話 ページ36
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「送ってくださってありがとうございます」
マンションのエントランス前で、ペコリと頭を下げる。
本当は「いいです！」と断ったけれど、「夜遅くに女の子を一人で帰すわけにはいかないから」と言った大野先輩の善意に甘えて送ってもらった。
「翔ちゃんに連絡してあげてね」
「あ、はい」
「俺の無実を晴らすために(笑)」
「無実…？」
「だってすっごい俺怒られそうだもん、だからお願いね(笑)」
おやすみ、と言って、ひらっと手を振った大野先輩は、くるっと私に背を向けすぐに歩き出した。
大野先輩の背中を見届けて、エントランスを抜けて、家に帰る。
大野先輩に言われた通りに櫻井に連絡をしようとスマホを鞄から取り出して、ソファに座って電話を繋いだ。
『もしもし？』
「あ、私」
『知ってる』
３コール目に繋がった電話。
櫻井の声は電話越しに聞くといつもよりも低く感じる。
「一応、帰ったよって連絡」
『俺もさっき帰った』
「そっか」
あんまり電話をする機会がないから少し緊張。
会社で毎日顔を合わせるし、用事があるときはラインのやり取り。
『なあ、今からそっち行っていい？』
「え？今から？」
『嘘、もう電車ねぇもんな』
ハ、と短い息。
多分、今からだったら終電の時間ギリギリ。
「ごめんね」
『は？何が？』
「好きだよ」
『バカかよお前』
はあー、と今度は深い息。
「バカだよ」
『会いたくなるからんなこと言うな』
櫻井の声がくすぐったい。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年3月15日 19時
