18:一つの選択肢 ページ18
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今日は午後から外回りで直帰。
二宮くんと一緒に取引先に出向いて、その帰りだった。
「じゃあ、お疲れさま」
取引先の最寄り駅に着き、ここで解散しようと思いそう言えば
「ご飯食べに行きませんか？」という二宮くんの誘いに「え？！」と思わず声を張り上げた。
我ながら驚きすぎ。
「だめ？」
「あ、いや」
「じゃあ俺に付き合ってくれません？もうお腹ペコペコで」
何だろう、「だめ？」と訊かれると断り辛くなる感じは。
これは計算として？選択肢を一つに絞る手法？
ハッキリと返事をしないうちに、「行きましょ？俺この辺でいい店知ってるんで」と腕をグッと引っ張られて、その手につられて歩き出した。
二宮くんとご飯、櫻井に言った方がいいのかな？
でも、気があるわけでもないし、後輩の二宮くんだし、ちょっとした付き合いだろう。
ぼんやりと考えながら、私の腕を引く二宮くんの背中を追う。
「あ、ごめんね先輩、歩きづらかった？」
「え？」
腕を掴んでいた手を離され、二宮くんが少し申し訳なさそうな表情を浮かべ、私の顔を覗き込んできた。
「いや、全然大丈夫だよ」
「ホント？先輩優しいよね、たまには俺を怒ってもいいのに」
スタスタと歩き出した二宮くんと肩を並べて歩けば、「櫻井さんは相葉くんに怒ってばっかじゃない？」と少し笑いながらそう続けた。
「それは二宮くんが優秀だからで、相葉くんは…うーん、ちょっと抜けてるからじゃない？」
「俺Aさんが教育係でよかった」
「え、名前」
「あ、」
言っちゃった、という顔をして、えへへって笑った二宮くん。
二宮くんは私のことを“先輩”と砕けた呼び方で呼んでいる。
苗字にさん付けよりは距離の詰まった呼び方に、初めから二宮くんとの距離感はあまりなかった。
そこに不快感もなければ、逆に居心地の良さを感じるくらい。
「櫻井さんが先輩のこと、Aって呼んでるのが羨ましくて」
「え？何で？別に櫻井くんは入社してからずっと気にせずそう呼んでるだけだけど…」
言葉の意図が見えなくて、ん？と隣の二宮くんを見上げれば
「それが羨ましいって言ってるんですよ」と二宮くんが小さく笑いながらそう言った。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年3月15日 19時
