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朝目が覚めると、｢おはよう｣ と声がする。
私はベッドの上、口は硬い何かで覆われて、たくさんの管に繋がれている。
しっかり握られた私の両手の先には、涙目で私を見つめて笑う家族の姿があった。
｢意識、回復しました！！｣
やったぞ！という勇ましい声や、良かったあと安堵する声。
たくさんの声が私を包み込んだ。
そんな中、横から｢よかった、ほんとに良かった。｣と、少し低めの潤んだ声が聞こえる。
聞き覚えはないんだけれど。
｢A……っ、ほんとに良かった…。｣
そう言って私を呼ぶ男の人の姿が、枕元にあった。
｢近寄らないでっ！！！！｣
思わずそんな声を上げていた。
なぜなら、知らない男だったからだ。
唖然とした男の人の顔と、静まり返る病室。
キョトンとした顔の母は握りしめていた手の力を緩めた。
｢A、和くん相手にそんなに照れなくたっていいじゃない。２週間ぶりの再会じゃないの。｣
｢そうだよA、いくら仲良いからって彼氏に怒鳴り声あげるなんてらしくないじゃないか。｣
母と父が冗談めかしくそんなことを言ってくる。
和くん？彼氏？
｢こんな人、知らない。｣
そんな人私にはいなかったし、和くんって誰？この人、誰？
私はすっかり、彼"だけ"の記憶を無くしていたみたいだった。
｢どうやら、部分的な記憶の障害を起こしているようです。
一時的なものかもしれませんが…、最悪の場合は、完全にその一部分のみの記憶だけ抹消されてしまうかも知れません。｣
医師はそう告げた。
｢そんな…っ、｣
苦しそうな表情を浮かべながら、彼は病室を飛び出していった。
肩を落とす両親たち、頭を悩ます先生がた。
何故か、その状況に私の胸は苦しくならなかった。
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作者名：ななめ28° | 作成日時：2018年7月13日 20時
