ハッピーシンセサイザ【マサイ】 (ページ31)

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第１志望の大学に合格した高校三年生の２月。
わたしは部屋で１人、ダンボールを積み上げている。

従兄弟たち家族が引っ越す事になったため、
わたしもこの機会に一人暮らしをする事になったのだ。

それなりに稼げてるから、伯父夫妻も許可してくれた。

反対するモトキを説得するのには骨が折れたけど。

安心できる物件を、モトキが選ぶ。
そんな条件で渋々納得してくれた。

みんなと一緒に育った亀有から少しだけ離れるけど、
すぐに帰って来れる距離だ。

まだ引っ越すまで日にちはあるけど、
空いた時間を活用しながら、少しずつ荷物をまとめている。

窓の外から二階に上がってくる音がする。
窓から階段を見下ろすとモトキとマサイの後ろ姿が見えた。

久しぶりの後ろ姿に、胸が弾む。

(家族が連れてきたのがたまたま好きな人なだけ。
ルール違反にはならない。)

自分に言い訳して、玄関に向かう。

ガチャガチャと鍵を回す音を聞きながら
２人が扉を開けるのを待つ。

「わっ！」

びっくりして後ずさる２人を見てけらけらと笑う。

わたしがいると思っていなかったのだろう、
マサイはまずいと思ったのか、方向転換しようとする。
そんなマサイの手首を掴んで家に引きずり込む。

「家族が連れてきた友達とたまたま家で会っただけ。ルール違反にはならないよ！」

自分にした言い訳と同じ事を言う。

「カイ君ごめん、ガムテープ切らしちゃったから、買ってきて」
昨日も買いに行かされたモトキにはバレバレの嘘だ。

溜息を吐きながら、渋々と外に出て行くモトキ。

マサイは状況が飲み込めないのかとぼけた顔をしてて、なんだか可愛い。

マサイの手首を掴んだそのままで
自分の部屋に向かう。

「だいぶ片付いてきてんなー」

マサイの手を離し、いつもの位置に２人で腰掛ける。

「この部屋には思い出がありすぎるよね」

「この部屋に入るのも２年半ぶり位か、すげぇ懐かしく感じるな」と嫌味ったらしい言い方で言われる。

「…今更だけど、急にアイドルになってごめん」

「ほんとだよ」

２年半ぶりに２人で笑う。
アイドルとしての私じゃなく、素顔のわたしで。