【言葉…】特編 「記」

011*坂本side ページ11

長野「なーんてね、でも、思いもよらぬ収穫があったけど」
坂本「はあ？」

そういって長野はメーターパネルの窪みに手帳っぽいものをのっけた

坂本「おい、何するんだよ長野」
長野「お土産」

おい、普通は俺の誕生日なんだからプレゼントとか気の利いた事…
あ、そっか誕生日…こいつにとっては禁句だよな…
今んところ本当に大丈夫みたいだけど
どっかでは引っかかってそうだしな…
長野の“お土産”は精一杯のおめでとうかもな
ったく、健にはHappybirthday言ってたじゃんよ

あー結局こいつは何でついてきたんだよ
やっぱわかんね

その手帳を手に取った
見るとそこには“1994”と書いてあった

坂本「え？、おい長野これ使え…」

横を見るとすやすやと眠る長野が隣にいた
少し疲れたような顔をしてるように見えた
でもその表情はどこか満足げだった

坂本「長野？…」

何でこんなもの…
俺は中を開いてはっとした

坂本「母さん…」

俺は思わず涙がこぼれた

“1月○日 △歳、やっとお雑煮を食べてくれた日”
“3月10日 23歳、教員試験合格！！”
“4月□日 ▼歳、初めて友達と喧嘩した日”
“７月24日 24歳、昌行誕生日！！”
　 .
　 ：
パラパラめくっていくとほとんどの月に何かしらの記念日がかいてあった
そして最後のページに付箋が貼ってあった

“教員試験お疲れさま、合格おめでとうございます。おかえりなさい昌行 母より”

これは教員試験のお祝いか…
そっか、俺はあの時母さんに電話で合格を伝えて
帰るって言っときながら結局帰らなかったんだよな
1人で家を飛び出してからの初めて母さんに連絡を入れたんだった
でも結局、どんな顔で合わせていいかわからなくて逃げ出した。
そっかあの日以来電話、かけてないんだ…
そしてこそこそ自分の誕生日に母さんを見に行くようになった

俺は涙をぬぐった


なんだよこれ、これじゃ予定かきたくてもかけねえじゃん。


きっとあのころ俺がいきなり家を出てあんなクズだったけど母さんは寂しく思ってくれていたんだろう
俺が返ってくると聞いて張り切ってくれたのか、必死の想いなのかこんなにかきこんで…
あの時帰っていたらやり直せていたかもしれない
なのに俺はすっぽかした、今更遅い気がする。
今母さんは俺のことどう思っているのだろうか…

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