偽りでもいい ARS × KJ∞ ７

１６３・波多野side・~回想~ ページ13

・波多野side・〜回想〜




親父の言葉に返事をする間もなく


患者のもとへと走る親父


俺も慌てて追いかける


診察室に行くと


すでに運ばれてきていた患者


全員で三人



「乗用車とトラックの正面衝突

乗用車の方にはこの女性と女の子が乗っていたようです」



看護士が口早に簡単な説明とカルテを渡す


チラリと見えた女性のカルテには内臓破裂の文字


鳥肌がたった


トラックの運転手は意識があり


かすり傷だけ


そして、女の子は頭に大きな切り傷


意識はなく


出血が止まらない


まだ、5歳らしい


あんな、小さな体から血がドクドクと流れる


何も考えられなかった


状況が、全くつかめなかった


怖くて、何度も目を伏せた


でも、そのたびに繰り返されるオヤジの言葉


“しっかり見てろ”


ゆっくりと親父の背中を見る


そこには、俺の知らない


“医師”としての親父がいた





何時間たったのか、


重傷者二人の手術が終わり


今は女性が集中治療室で眠っている


手術は成功、けれど、


命はもうもたない


外の長椅子で待つ俺


と、やって来た車椅子に乗ったさっきの女の子


恐らく父親であろう人物に車椅子をおされながら


母のいる集中治療室に入っていく


そして聞こえてきた


命の終わりを告げる音


あぁ、ダメだったのか・・・


まるで、娘を待っていたかのようだね


ポタリ涙が流れた


ピーーって音が耳の奥にこびりついて離れない



「これが、医療という現場だ」



俯く俺の真上から降ってきた言葉


顔を上げれば親父が目の前に立っていた

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